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中国政府が直面するインフレとの戦い (2007年06月01日)

 中国人民銀行は明言しないものの、人民元は今後、管理フロート制の下、年率5%ほどの割合で元高になっていくことが予想されています。

 1985年のプラザ合意以降の急激な円高で、隣国・日本の輸出産業が地獄の苦しみにのたうちまわっていたのを、中国政府は間近に見ていました。

 「あれだけの競争力を持つ日本の製造業があんな状態になるのならば、まだまだ未熟な中国の輸出産業は壊滅的な打撃を受けるであろう。製造業の会社が次々と倒産すれば、大量の失業者が発生し、国内の治安が乱れる恐れがある」と考えた中国政府は、日本のケースを他山の石として、変動相場制への移行を頑なに拒みつつ、ゆるやかな元高で中国国内の輸出産業に国際競争力の向上を促しているのです。

 ライオンの親は子供を谷底に突き落として、這い上がってきた子供だけを育てる、と言いますが、中国の子ライオンたちは今まで国家の庇護の下、ぬくぬくと甘やかされて育ってきましたので、あまり手荒なことをすると1匹も這い上がって来られなかった、なんてことにもなりかねないのです。

 かと言って、いつまでも人民元を安いまま放置しておくわけにもいきません。元安による貿易黒字の増大は、外貨準備高を1兆2,000億ドルまで押し上げ、それと等価の人民元を市中にあふれさせることになっているからです。人民元が大量に市中にあふれれば、貨幣価値は低下しインフレが起こります。

 実際、昨年は不動産のみだった物価上昇が、今年は食品などにも広がり始め、今年3月の消費者物価上昇率は前年同月比3%を超える上昇となりました。

 これを警戒した中国政府は、今年に入って既に、2回の利上げと、5回の預金準備率引き上げを行い、市中に出回る人民元を減らすのにやっきになっています。

 ちなみに預金準備率とは、民間銀行が預金残高の一定割合を、中央銀行に預け入れる比率のことで、今の中国では預金準備率を0.5%引き上げると、市中の人民元を1,500億元(2.25兆円)分吸い上げる効果があるのだそうです。

 インフレによる物価高は老百姓(らおばいしん、一般庶民)の生活を直撃し、共産党の政治に対する不満の増大を引き起こす恐れがあります。また、生活が苦しくなった人たちが暴動を起こすなど、国内の治安を乱す原因にもなりかねません。

 中国政府にとってインフレ対策は、現体制を維持するための最重要政策の一つなのです。

コラムニスト 柳田 洋 Yanagita
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最終更新日 2012-04-27

 

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