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第11話 調子合わせの接尾語&接頭語 (2008年01月07日)
尾っぽ、の“っぽ”で何だろう。尾っぽの別の言い方、しっぽでも同じ“っぽ”が付いているぞ、と尻尾を辞書で引いてみると、元々の発音は尻尾そのままの読み方の“しりお”であり、その“しりお”が転じて“しっぽ”となったそうである。尾っぽに戻すと、尾だけ発声したとすると言いにくいし、相手も聞き取りにくいので、同じ意味の単語の尻尾の“っぽ”を借り、尾っぽとしたのであろう。ゆえに、この“っぽ”には意味は無い。では、何故“尾”だけだと、言いにくく聞き取りにくいか? それは音節が短いからである。“尾”は、最低単位の1音節である。そう考えてみると、他にも例はある。お茶の“お”、これは敬意や上品さを表現する“御”と言われる方が多いと思うが、しかし現代のこの世の中で、「茶を下さい」とか「茶をくれ」と言う人は極めて稀である。よって、これも今では1音節に意味の無い音の“お”が付加している、と言える。注4)同じ“お”の例では、お麩、お湯、お酢など。“お”以外の別の例では、田んぼの“んぼ”、根っ子の“っ子”、ほっぺの“っぺ”、それに幼児語になるが、単語を重ねるお目目の後ろの“目”などもある。
上記の原因となる短い音節、これは世界の言語の中でも中国語が最右翼である。よって、豊富と言うより、中国語は、意味を持たない接頭語&接尾語の宝庫である。上記の日本語例は考えに考えた結果であるのに比べ、中国語の方は合間の時間にちょっと調べただけでも、流石に事例はザックザク。 ■ 名詞に付加 ・子 袋子(袋),呆子(間抜け),帯子(帯),蚊子(蚊),獅子(ライオン),靴子(ブーツ),房子(建物) ・小 小孩子(子供),小孩児(子供),小狗(犬),小姑娘(女の子),小時(時間),小猫(猫) ・老 老鼠(鼠),老虎(虎),老師(先生),老鷹(鷹) ・大 大象(象),大餅(パイのような食べ物),大牢(牢屋),大叔(おじさん),大蒜(にんにく) ・頭 里頭(中),外頭(外),上頭(上),下頭(下) ■ 動詞に付加 ・一下 停一下(止まって),考慮一下(考えます) 注1) ・点児 吃点児(食べる),喝点児(飲む) ,説点児(話す),用点児(使う),拿点児(取る) ・会児 睡会児(寝る) ,等会児(待って),待会児(待つ),坐会児(座る) ■ 動詞を重複 ・聞聞(嗅ぐ),聴聴(聴く),看看(見る),走走(歩く),打打電話(電話する),喝喝(飲む) これらは、同音異義語による混乱を避けたり、また話し手と聞き手の調子を整える目的もある。一例を挙げると、「大象有長鼻子」、訳すと象は長い鼻だ。これを、文法的には合っているものの「象有長鼻」と、普段言わない言い方に変えてみると、中国人同士でも意味が全く通じない。「象有長鼻」の文字を見れば解るのではあるが、聞くだけでは意味不明だそうな。また、「象有長鼻子」と言ってみると、鼻は長いみたいだ、と意味すら変化してしまう。「大象有長鼻子」と、本来は意味は持たない“大”や“子”を付加しないと、スムーズな会話が成立しないのである。 世界であまり例の無い3音程からなる四声により、短くなり過ぎた中国語。1音節だけだと言いにくいのでそれを補うために、上記の様な本来意味の無い調子を整えるための接尾語や接頭語が付加されるのである。私の仮説≪中国語は自然発生的な言語では無く、誰かが強制的に定めた人工的な言語ではないのか?≫ 今回のテーマは、その仮説を裏付ける一つの検証になりはしないだろうか。そう願いつつ今回は筆を置く。 謝辞)執筆に当たり御協力戴きましたRainy李,Yurin周,DIO龔,Lily馬,小鈴,史幼之、ありがとうございました。 注1)一下には、ちょっとの意味が本来あるが、ちょっと と関係無い時も、調子を合わせる目的で一下を付けるのが一般的である。 注2)華東や華南地区の若い女性が可愛らしさを演出するための啦,拉,呀,牙,啊,阿,的,滴などの意味そのものは持たない接尾語、例えば謝謝啊(ありがと)、是的=対的(そうよ)、好的=好滴(いいわ)などは、今回のエッセイでは割愛した。最近は徐々に地域や世代を超えて拡がっており、男性も使い始めている。別途、執筆予定である。 注3)『老松の猫虎飯店』の著作権は、全て松原弘明に帰属します。無断転載を堅く禁じます。 注4)元来は御茶で、丁寧さや上品さを表す接頭語の“お”であった。しかし、時代と共に変化し、現代では単に“茶”とは言わず、“お茶”が慣用されている。したがって、今では1音節に意味の無い音の“お”が付加している、と言える。御質問戴きましたSUPER CiTY CHiNA吉沢健一副編集長に、深謝致します。 改訂:1月7日 初版:1月4日 |
コラムニスト | 松原弘明 |
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最終更新日 | 2011-08-20 |