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小売り ~直販王国・デルの新大陸 (2008年09月03日)

 このたびデルと国美は、中国において直販以外の販売を開始した。デルにとっては、短期で効果的な販売店ネットワークを構築するのは難しく、道のりは長く、障害も多い。デル従来の直販モードの欠点を見直し、小売販売モデルを構築するには、協力対象を広く開拓することが必要である。小売販売はデル直販王国の新大陸になるであろう。

 マイケル・デルは、今年最高経営責任者職に復帰した後、その販売ルート政策の調整を開始した。9月24日、デルは国美電器への大規模な直接提供を発表。これは、同社の全世界小売り戦略の重要な部分だと考えられている。またこれ以前に、それぞれ米国、日本とイギリスでBic Camera社、Carphone Warehouse、ウォルマートなどの小売大手業者との間にパートナー関係を成立している。

  「新基準を確立したければ、既存の基準を廃棄せよ」
 1、直販は名ばかりで実力がない
 デルの直販モードの中では、すべてのコンピュータ販売は中間販売店を経由せずに、エンドユーザーと直接行う。但し、商業ユーザー向けの直販は、厳密には実行していない状態だ。デル・コンピュータ製品の自由価格政策は、購入量が多ければ多いほど、割引は大きくなる。このような政策はいくつかの販売店に利益取得の余裕をもたらす――つまり販売店はデルから大量の安価製品を購入し、エンドユーザーに販売するその価格差が利益となるのである。一方、中国の消費者は前払いという方式に慣れていないため、直販概念に対して、ずっと不信感を抱いており、販売店介入のための「空間」を残してきたと言える。専門家によると、70%のデル製コンピュータはシステムインテグレーターを通じて、エンドユーザーの手に送り届けられる。つまり、デルの直販は中国において、実際名ばかりで実力がないと言えるのである。

 2、サービスの改善
 デルの直販モードでは、その従業員によるサービス提供が必要であるので、人が変われば完璧なサービスを不可能にする。実際、デル中国での直販サービスでは何件も苦情が寄せられており、“注文書廃棄”事件も頻繁に発生している。このような事件は個人および法人ユーザー間では絶対にあってはならないことから、デルの直販モードの持つ弱さが現れている。

 3、さまざまな市場変化
 中国が決定する「3、4級」および更に低いレベルの都市には大きな市場空間がある。しかし、これらの地区の経済は比較的遅れており、直販の実施が難しい。中国の中小都市における消費者は、現地又は販売店から製品を買うという習慣を持っているためである。ヒューレット・パッカードと聯想を例にとると、中小企業と3,4級地区の市場を開拓する際に、流通ルートの追跡、特に現地において影響力がある販売店との協力を重視している。

  「長い道のり、多くの障害」
 課題1:専門小売販売組織の養成
 マイケル・デルは復帰以降、以下のような人事を準備した。:モトローラから小売りと販売ルートに詳しい副総裁を全世界消費者の業務担当として招聘し、甲骨文から首席市場運営官を販売モード変更の顧客対応担当として招聘するとともに、全世界運営総裁マイケル・キャノンを新組織責任者・新モデル製造担当として任命した。

 人材を配備した後には、1つの効果的なルート網の構築を終えるまで、長い過程を要し、さらに各ルート業者との商談を行い、双方の信頼関係を構築する必要もある。例えばヒューレット・パッカードは25年も費やし、ようやく強力なルート・モデルを構築でき、軌道に乗ったのだ。

 採用した人材を生かして、効率のいい組織を編成し市場を拡大し、各ルート業者との協同関係を強化する。そして双方の信頼関係を作り、業務の中で自社の従業員を育成し、経験を重ねていく、といった複合モデルの運営にデルは次第に適応してきている。この小売販売組織の善し悪しは、デルの販売ルート調整の出来にかかってくることとなった。また、どれだけ速く各方面と強力な関係を築くか、2種の販売モードをどのように互いに対応させていくかなどが、販売ルート調整以降の課題となっている。

 課題2:2種のマーケティング間の矛盾関係
 デルの、ゼロ在庫が可能な一流の供給チェーンは、完全に直販に適しているのだが、小売販売の要素を加えると、両者間の対立は避けられない。つまり、2種の販売ルートが存在すると、管理面に新しい課題が生まれる。販売ルートは多元化すると、ルート間で競争が生じ、各ルートによって価格戦略が異なるなら、そこに不満が生まれる。また、代金支払期限に伴い、販売代理店との信用管理の強化が必要となる。

 二兎を追う者は一兎も得ず。デルが小売販売への第1歩を踏み出す時、従来の直販の影響を受けることは言うまでもない。だが、両者間の関係を円滑に調整する事が最重要であり、さもなければ販売ルートの混乱を引き起こし、コントロール不能の状態に陥ることになるだろう。

 課題3:価格と利潤の取捨選択
 2つのルートを、出荷価格それとも端末価格のどちらによって一致させるのか?これは対処すべき困難な課題である。出荷価格と大きな差がなければ、小売販売の利益は低すぎることになるのだが、賽迪顧問は、2種のルートを別々に計算して、それぞれ別の政策を採ることを提案している。また、デルが国美以外のルート業者に加盟するなら、各業務においても大きな挑戦となるであろう。

  後方戦略
 1、販売ルート構築は、1日にしてならず
 聯想はかつて、デル小売販売戦略を評して“ルート構築は、1日の努力だけでは出来ない”と言ったことがある。つまり、デルが今から、既に数年もルート構築で努力している聯想をはじめとする本土PCメーカーを追いかけるという事は、容易ではないのだ。

 聯想は、長年にわたり販売ルート開拓に多くの人、物資を費やした結果、やっと国内の各種パートナーとの“暗黙の了解”関係の築き方を手に入れた。たとえば、どのようにメーカー間の利益均衡を保つか、どのようにパートナーごとの戦略区分をつけるか、どのように異なるパートナー間の協力および競争関係を把握するか、どのようにそれぞれの時期・製品・地区・パートナーに相応しい製品販売戦略を制定するか。これらの問題は一見非常に些細な点のようだが、全てはメーカーが販売ルートでどれだけの業績得られるかに直接関わる事である。しかし、これらは多くの時間を要し、デルとパートナー間で本当の信頼関係が実際築けなければ実現しない。身をもって経験しないなら、机上の空論に止まり、実務面において生かすことができないのである。

 したがってデルは、ヒューレット・パッカード、聯想などのルート業者の豊富な経験を参考にして、長期戦略の視点で、ルート業者との関係を順調に保持していかなければならない。何事も一朝一夕にできることではないので、1歩1歩確実に進んでいくことが大切である。ウェブサイト上で他ブランドの製品を代理販売するのは、自社のブランドイメージを向上させ、製品の流通ルートを広げるためである。中国における国美との協力の目的もここにあるのだ。デルと国美の提携は、直販以外の方法への第1歩である。強大な小売販売ネットワークへの試金石であると同時に、種まき機の役目を果たす、デルの直販王国が開拓する新大陸であると言えるだろう。デルにとって、短期内に効果的な販売店ネットワークを構築することは決して容易ではない。万里長征への第1歩のようであり、その道は険しく長いのである。

 2、 販売戦略の漸進 
 厚い氷は1日の寒さでできるものではない。つまり、販売戦略の転換も順を追って進行させなければならず、成功することは容易ではない。チーム育成には一通りの過程が必要となるし、同様にパートナーの信頼関係の構築も双方が協力する中で作り上げられていくものである。デルにとっては、国美との提携がまさにその一面である。国美を選んだことで、まず価格面で従来の直販モードへの打撃をあまり受けない。その次に、「低級」市場の開拓、販売範囲拡大が可能となり、更にチーム養成、経験蓄積もできる。

 デルVostro製品から販売することから、同社の小売販売分野での試みと努力がわかる。販売チーム、アフターサービス、市場開拓に関わらず、Vostro製品は全て1つの独立したチームが担当し、大手企業向けのInspironやLatitudeなどの製品とは異なった戦略をとる。1、2級の市場では、オンライン、オフラインや市場活動および取引先への直接アプローチを活用して、Vostro製品普及およびITソリューション簡素化を図る。そして4、5級以上の市場の場合は、いくつかのパートナーを通じて普及していく。
上記より、直販モードの弱さを補い、小売販売ネットワークを整備しようとするなら、デルは協力対象およびその関係を広く深く開拓しなければならない。デルは更に多くの小売業者と協力して、さらに代行制度を推し進めるだろうと、筆者は予想している。全力を挙げて消費市場に進出する、という1つの明確な戦略があるのだから。

 国美との提携は、経験蓄積への小さい1歩に過ぎないが、デルにとって短期間に効果的な販売店ネットワークを構築するのは難しいため、万里長征への第1歩とも言え、その道は険しく長い。お互いに刺激し育成していく事で、ベスト・パートナーとなりうるのだ。

 変革はより順調な発展を促す。デルの販売策略の変革が、単一的な直販の欠点を補い、実際の販売の中で経験を重ねて方式を改善し、2者の最も良い連結点を探し当て、中国市場に適応したデル販売の道を作っていく、そう筆者は信じている。


コラムニスト CCID Ccid
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最終更新日 2012-11-14

 

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