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モトローラ式撤退の背後にある6つのマーケティングミス (2008年09月03日)

 モトローラ(MOTOROLA/米国)は2008年3月26日、損失が続く携帯電話業務を切り離し、単独の上場企業にすると発表した。賽迪顧問(CCID)の統計データによると、モトローラ製携帯電話の世界市場シェアは、2006年の22.2%から、2007年には12%に下がり、業界第二位のポジションを三星電子(SAMSUNG/韓国)に譲り渡した。モトローラ全体業務に占める携帯業務の割合は、70%から52%に減り、利益貢献も2006年の27億米ドルから、2007年には損失額12億米ドルを出すまでに落ち込んだ。

 ミス1 V3のスター性に酔いしれ、製品開発の方向性を見失った
 モトローラの2005年通年利益は102%に向上し、携帯電話出荷量は40%増となり、モトローラ・ブランドは息を吹き返した。現在まで、V3は世界各国で人気携帯電話ランキングの上位を占めている。
 
 V3はモトローラの復活に貢献しただけでなく、市場シェアトップを狙えるかもしれないという希望をも感じさせたが、モトローラはV3の市場での成功に酔いしれてしまった。賽迪顧問(CCID)の研究によると、2005年までは、スター機種の投入が勝敗を握っていた時代で、スター機種を1台出せば、2~3年は人気商品として売ることができたが、2005年以後は、人気機種でも1年経てば「時代遅れの製品」にならざるを得なくなった。モトローラは「スター機種が救世主になる」という幻想から今も逃れられずにおり、V3が市場での優位性を失った後でさえも、カラーバリエーションや価格変更等の低レベルな市場対応で劣勢を返上しようと必死になっており、V3の寿命を人為的に延ばすことで、逆に市場チャンスを逃してしまった。3年経ってやっと、モトローラはV3の過去の栄光を捨て、製品戦略を練り直し、ライバルがこの3年間で自社の技術的強みをもとに独自のポジションを確立したことに気づいた。例えば、ソニーエリクソンのミュージック&サウンドやカメラ機能に優れた携帯電話、多普達(dopod/台湾)のナビゲーション携帯電話などは、細分化した市場で独り勝ちしている。V3はモトローラにいい夢を見させたが、市場で地殻変動が生じた際に進むべき方向を見失わせた。

 ミス2 新製品の投入スピードが遅かった
 V3を代表とする「RAZR」は、ここ数年で、モトローラに数十億米ドルの利益をもたらした。ただ、残念なことに、モトローラはこれらの利益を新製品の研究開発に充てず、モデルチェンジ型の製品を市場投入することで市場ポジションを固めようとした。研究開発費を流用したツケで、新製品の投入量や投入速度が落ちた。

 賽迪顧問(CCID)の統計によると、中国市場では、モトローラは2007年に13機種の新製品を投入したのみだが、ライバルの三星電子(SAMSUNG/韓国)は54機種、ノキア(NOKIA/フィンランド)は37機種を投入している。ノキアと三星電子の製品ラインは非常に豊富で、販売ルート別に異なるタイプの機種を打ち出すことで、端末同士の競争を回避している。モトローラは市場投入する新機種を抑え、少ない機種を異なる販売ルートに振り分け、全面的な製品供給を行った。このような戦略により、モトローラは携帯端末の販売で相互競争を招き、売上総利益率が一層低下した。非常に対照的なのは、2004年のV3投入前、モトローラは豊富な製品ラインに定評があり、「機海戦術」とさえ例えられたほどで、新製品を市場投入しても消費者の印象に残らないほどだった。しかし、モトローラの数多い製品群に埋没してしまうため、消費者にはライバル社の製品を記憶する暇もなかったのである。

 ミス3 急激なプライスダウンにより、自らブランドイメージを損ねた
 新製品投入が追い付かない中で、価格を下げたため、モトローラは販売台数を増やす手を打たねばならなかった。V3を例に取ると、市場投入時は6,000元強のハイエンドなファッショナブル機種であったが、4,000元強のホワイトカラー向け機種にレベルダウンし、その後、2,000元強の大衆向けレベルに、最後は生産停止直前の1,200元強まで落ちて、2年足らずで8割目減りした。短期間での急激な値崩れは、ほとんどのハイエンドユーザーに受け入れられず、V3のポジションも怪しくなり、結果としてモトローラ・ブランドの信用が全く失墜した。賽迪顧問(CCID)が公表した「2007-2008年中国携帯電話ブランド競争力研究年度報告」によると、モトローラ製携帯電話のブランド信用度ランクは、しばしば大手外国製携帯電話ブランドの下位にランキングされている。過酷な価格競争の下で、モトローラは市場シェア額の向上により、再び利益率を維持しようともくろんだが、全く当てが外れてしまい、市場シェア率も利益率も低下し、現在では、利益率はたった11.2%である。ちなみに、ノキアは16.8%である。

 ノキアの価格戦略は対照的だ。人気機種に対する同社の戦略は、たとえ生産停止に追い込まれたとしても、決して価格をやみくもに下げることはせず、製品従来のポジションやブランドイメージを守る。例えば、往年の7650や6610、最近のN70やN72、N93は、一定期間後は生産停止や他製品に地位を譲っているが、これも豊富な製品ラインを誇るノキアの強さならではのことだ。

 ミス4 製品の特色が不足していた
 携帯電話メーカーの成長や発展を受け、消費者ニーズは日々変化し続けている。携帯電話に対する消費者ニーズは、今では外観にとどまらず、厳しい消費者に至っては携帯電話の構造や性能の特性など、携帯電話内部の技術分野に強い関心を向けている。モトローラのピクセル、画面、解像度、メモリーは、いずれもノキアの同類機種に劣る。例えば、今年、Z12を投入するまで、市場にはモトローラ製の500万ピクセルの携帯電話は存在せず、2007年の500万ピクセル携帯電話戦争には、モトローラは参戦していなかった。

 携帯電話の外観について見てみると、V3の投入後は、モトローラが発表する大部分の新製品は、Uシリーズ、Lシリーズ、KシリーズのいずれにもV3の影がつきまとっていた。V3のキーボード設計は確かに素晴しいが、それを凌ぐ製品であっても何度も何度も取り出して使用すれば、消費者は視覚疲労を起こし、抵抗感さえ感じるかもしれない。買換えユーザーにとっては尚更のことである。

 ミス5 市場開拓時、製品の強みを鮮明に打ち出せなかった
 V3は携帯電話工業設計面での傑作であり、さらには、市場拡販の点でも成果をあげた。V3及びV3の市場拡販活動により、モトローラは技術分野と市場分野をつなぐ幸福のバランスポイントを見つけたと思われた。ただし、V3登場後は、同様なバランスポイントを探しあてることはできなかった。例えば、中国研究開発センターが独自開発した携帯「明」には、名刺スキャン機能やMMI機能(Man-Machine Interface)など、モトローラが初めて開発した新技術が数多く搭載されている。一方、モトローラの市場拡販においては、V3のように、技術上の新機軸を打ち出したり、その技術を強化したりすることは遂に叶わなかった。

 ミス6 研究開発と市場のミスマッチにより、仕入コスト高を招いた
 モトローラは技術主導型企業であり、エンジニア文化が非常に色濃い企業だ。この種の企業は通常、利己的で、「技術論」が唯一であり、それが故に、モトローラでは市場部門が消費者ニーズに関する情報を専門に収集しているが、技術主導型企業文化の中では、研究開発部門に消費者ニーズが伝わりにくく、研究開発部門は複雑系統の開発に一層大きな精力を注ぎがちになり、研究開発と市場ニーズのミスマッチを引き起こした。

 また、モトローラ内部の製品企画戦略面での不統一や不安定により、川上の部品の仕入れコストが下がらなかった。モトローラでは機種ごとに新たなプラットフォームを持つが、プラットフォーム間の互換性がなく、生産や仕入、企画面で難易度を上げてしまった。

 世界トップレベルの通信機器メーカーにとっては、システム機器と携帯電話端末の2つの業務を同時に運営することは、「終わりのなき任務」のようなものである。エリクソン(ERICSSON/スウェーデン)、アルカテル(ALCATEL/仏)、シーメンス(SIEMENS/独)、ノキア(NOKIA/フィンランド)が相次いでこの「二者択一」の課題をこなしており、モトローラも2004年に一度、取り組んだことがある。当時、モトローラは半導体事業部を切り離し、現在の携帯電話用チップのメインサプライヤーである「Freescale」を設立した。その4年後、モトローラは再び選択を迫られることになったが、これは「天災」ではなく、より「人災」に近いものである。

  • 発行者:賽迪顧問股份有限公司(CCID)企業戦略コンサルティングセンターコンサルティング顧問 王剣

  • データ:同上、2008年3月

  • 邦訳者:CCID日本事務所 金絲猴

  • 著作権:全てCCID日本事務所に帰属します。無断転載を堅く禁じます。

コラムニスト CCID Ccid
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最終更新日 2012-11-14

 

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