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珠江デルタ情報産業のレベルアップ (2008年09月03日)

~資源がボトルネックに~

 東莞で数千社の靴工場が相次いで倒産したというニュースから始まって、最近珠江デルタでは多くの企業が他の地域に転出したり、倒産したりしたため、産業全体が凋落の危機に瀕してしまったという内容の報道が毎日のように紙面を賑わしている。多くの人々や専門家はこの現象に注目し、珠江デルタ及び中国全体の加工製造業に対し憂慮し始めたのである。

 今回の「閉店」騒ぎは電子部品製造業まで波及している。中小企業はさておき、富士康などのようなIT分野の受託生産大手や美的、康佳、科龍及び格蘭仕等のような電子産業のリーディングカンパニーも相次いで工場を内地に転出しようとしている。

 転出の原因について、深セン市で行なわれた転出企業に対するアンケート調査によると、「工場のレンタル料金が高い」が57.8%と最も多く、その次は「給料、福利厚生、社会保険費用などを含む人件費の高騰」(53.3%)である。三番目の原因としては、「用地のニーズが満たされない」(45.6%)が挙げられている。

 転出先は中国の内陸部やベトナムなど東南アジア諸国が多い。言い換えれば企業用地、用水、電力、人件費が安く、優遇政策が多い地域である。

 注意しなければならないのはこれらの企業の転出、閉鎖の根本的な原因である。何が珠江デルタのコスト圧力を高めたのだろうか。珠江デルタのこのような企業転出はどのような趨勢を示しているだろうか。企業の転出は他の地域の産業にどのようなヒントを与えたのだろうか。

 改革・開放30年、珠江デルタにおける工業化の道のりには顕著な特徴が2つ見られる。比較優位によるリーダシップとローコストによる外部への拡張である。しかし、この第2の特徴は高まる資源と環境危機により制約されるようになってきている。これは土地資源、人的資源の現状からも垣間見ることができる。

 中国政府は持続的成長を保障するために18億ムーの耕地を厳守しなければならないことになっている。しかし、珠江デルタでは既に土地資源が枯渇しており、外部への拡張にももはや空間がなくなっている。深センではすでに土地資源が厳しく制限されており、“十一五”(第11五ヵ年計画)期間中、深セン市の工業用地は「ゼロ成長」が続いている。

 またここ30年来、他の地域と比べ珠江デルタにおける経済は急成長を遂げているが、労働力にかかるコストも急激に上昇し、「民工荒」(労働者不足)の問題も益々深刻になってきた。

 珠江デルタの「ゼロ成長」と「民工荒」は、資源依存の成長モデルがすでにボトルネックに直面していることを示している。これによる地域内の土地コスト、労働力コストの継続的な上昇はコスト圧力を外部へシフトできない企業(たとえば電子製造企業)を転出と閉鎖に追い込むことになる。

 専門家は企業の転出による珠江デルタの産業空洞化を心配しているが、「空洞化」に対する防止策はあるだろうか。中国では、80年代より産業の構造改革と経済成長のモデルチェンジに対する模索が続いているが、効果が僅かに認められるのみである。珠江デルタが抱えている産業の行き詰まりは構造改革と経済成長のモデルチェンジが焦眉の課題であることを示している。

 賽迪顧問(CCID)からは、珠江デルタを産業「空洞化」から救う道は2つあると指摘したい。産業構造の調整と産業のレベルアップである。産業構造の調整では、近代的なサービス産業を推進し、第3次産業が珠江デルタの国民経済に占める比重を高めることである。デジタルコンテンツ等情報サービス産業は奨励すべき産業である。産業のレベルアップでは、研究開発とブランドマーケティングが珠江デルタ情報産業のウィークポイントであるため、当地域の情報産業の成長は電子製造の実力に基づく研究開発のレベルアップ及びブランド販売力の向上を待たなければならない。これを実現することが出来れば、初めて産業のバリューチェーンの上流を目指し、コストの圧力を回避することができるのである。

 この意味では、広東省の「騰籠換鳥」(限られた発展空間に低付加価値産業から高効率で高付加価値産業を入れ替える戦略)と「双転移」(珠江デルタからの産業移転を進めると同時に、周辺地域の高レベルな人材を珠江デルタに集める戦略)は、産業のレベルアップと構造改革に直結する積極的な措置であると評価したい。これからは、新たに珠江デルタに入ってきた「鳥」達(情報サービス業や新型フラットディスプレイ製造業)が強くなり、珠江デルタにおける情報産業のグローバル競争力を高めることが出来るかどうかを見守らなければならない。また、同産業の自主開発能力の育成も重要視すべき課題である。情報サービス産業も研究開発、販売等産業チェーンの上流を制覇すればこそ、持続的な競争力を高めることができるからである。

 資源・環境問題が中国の経済成長のボトルネックになりつつある中で、比較的に経済成長が早くて急ピッチの珠江デルタでさえ行き詰まりに見舞われてしまった現状では、他の地域でもいずれ同様な企業転出や閉鎖劇が繰り返されるであろう。これは、今積極的に珠江デルタより転出する加工製造業の受け皿になる他の地域も注意しなければならない喫緊の課題である。


コラムニスト CCID Ccid
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最終更新日 2012-11-14

 

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