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中国の電信業界再編が日系電信企業にもたらすビジネスチャンス (2008年12月23日)

  日系電信企業の海外市場開拓は企業実力に見合っていない
 世界の電信市場を見渡すと、欧州や米国、韓国といった電信先進国では、国内市場の過当競争により、企業の収益増見込みが年々縮小していることから、海外市場に照準を合わせた直接投資が増加している。ラテンアメリカ、アフリカ、アジアといった新興市場が、大手通信業企業の最初のターゲットになっており、先進国の主要電信企業は、資金力と豊富な事業経験を基礎に新興市場で大きな収益をあげている。スペイン電信のラテンアメリカ市場での成功がその良い例である。

 ところが、ここ数年、移動通信にけん引されて、電信業界自体は急速な発展を遂げているものの、日系電信企業は海外でほとんど目立った業績をあげていない。日本の電信市場はハイレベルで、例えばNTT DoCoMoは2002年より、世界に先駆けて3G(第3世代移動通信)ネットワーク事業を手掛けており、iモードやFOMAという革新的プラットフォームを立ち上げ、連結運営による産業チェーンを構築したことは有名である。日本の電信企業は、実力や経営理念では世界トップクラスだが、海外電信市場では相応する業績を達成できていない。

 中国市場は日系電信企業の最も有力な海外投資先になるだろう
 その原因は10年前の日系電信A社の海外投資失敗にある。1999年末から、A社は積極的に海外電信企業への投資を行い、米国や欧州、アジアの移動通信5社に1万9,000億円を投資した。ところが、バブル経済の崩壊により、2001年には、海外投資で1万1,000億円(約90億米ドル)の巨額損失を被った。また、国内でのライバル出現により、当時、日本の電信市場の覇者であったA社は、国内市場に力を注ぐことになった。

 しかし、3G時代の到来により、A社の海外戦略にも変化が生じている。2007年11月、A社は、少なくとも10億米ドルを投じた買収を発表した。また、アジアの他市場に対する投資を手掛け、同地域でのサービスを展開しようと計画している。更に、A社にとって、世界の移動通信市場で最も成長著しい中国は、最も魅力的なターゲットである。海外の主要電信企業が海外市場開拓をする過程では、自社の考えが反映されるもので、スペイン電信の場合は、言語的に近いラテンアメリカ市場の開拓を進めた。一方、SKテレコム(韓国)は、アジア周辺市場を開拓した。注目すべきなのは、SKテレコムは、中国の電信業界再編前は、中国聯通の重要パートナーであり、このパートナー関係を基に、CDMA2000方式を採用した第3世代携帯電話サービスという先進的事業を行うことができたことだ。

 日系電信企業の中国市場参入の第一歩は業務提携から
 中国電信市場には管理監督政策があるため、外国企業による中国市場参入は決して平坦な道のりではない。中国の情報産業界の中でも、電信企業は最も利益のあがる企業であり、その利潤率は世界平均レベルをはるかに凌ぐ。中国は世界最大の巨大電信市場であることから、中国の電信企業は資金面の心配もなく、他の産業のように、海外からの直接投資をテコに産業を発展させる必要性もない。事実上、中国移動は、世界で最も利益の高い企業の一社である。中国電信業界再編後の中国の電信大手3社(中国移動、中国聯通、中国電信)の格付けは、世界の同業者の中では最低ランクに位置づけられ、明らかに優位であり、前途有望な中国電信企業株人気は高まるに違いない。

 NTT DoCoMoを始めとする日系電信企業が、SKテレコムやスペイン電信と同じ方式で中国市場に参入するのは容易なことではないだろう。ただし、我々は研究を進めるうちに、中国電信業界の再編は、日系電信企業にとって、回り道ではあるが価値のある道であることに気づいた。

 中国の電信業界再編の主な目的は、電信市場に実力が拮抗するライバル3社を形成し、中国電信市場に競争環境を創出することである。また、電信企業3社に3Gライセンスを与えることも副産物としてある。業界再編の成果として、中国移動がTD-SCDMAを、中国電信はCDMA2000を、中国聯通はWCDMAを獲得した。電信業界再編を客観的に見た場合、中国移動が依然、実力で他2社を大きく引き離しているが、将来の市場競争が一層熾烈になることは間違いないだろう。中国通信市場の発展動向から判断すると、将来の市場競争は2方向に絞られるだろう。一つはモバイルネットワークを核とする3G事業で、もう一つは電信企業のICT(情報通信技術)事業である。この2つはちょうど、日系電信企業の強みでもある。日系電信企業の3G事業の定評は高く、日中間には似通った消費習慣があることから、日系電信企業が開発した事業を中国で展開する上で有利に働くのである。

 中国の電信企業の弱みは上記2つの事業であり、日系電信企業にとってはこの点が、中国市場開拓を行う際の攻略ポイントになる。つまり、中国の電信企業と企業連携もしくは共同実験室を設立し、中国の国情に合った電信事業を共同開発することが、日系電信企業の中国電信市場参入の第一歩になるだろう。例えば、中国移動は世界最大のGSM/GPRSネットワーク事業を運営しており、産業チェーンに対する統制力が極めて強く、NTT DoCoMoは、産業チェーンの掌握や発展を得意とする。中国聯通は、中国のWCDMAネットワークを打ち出す予定で、NTT DoCoMoはWCDMA事業の開祖である。中国電信は、CDMA2000ネットワークを運営予定で、KDDIはNTT DoCoMoとの競争により力を磨いた。このように、日中双方の電信企業が、全方位的かつ各分野での協力を行えば、相互協力により極めて大きな価値が生み出されるだろう。

 日中双方の電信企業による協力は、利益互換の原則に則るものである。日系電信企業は、中国の電信企業に先進的な事業運営経験や中国の国情に合った電信事業開発をもたらし、中国電信事業の持続的発展を促すだろう。それにより、日系電信企業も大きな見返りを得るであろう。中国ですでに、地理情報システム、企業のモバイル情報化、デジタルメディア、モバイルバンキング等の多くの分野におけるチャージ業務関連投資を行っている企業もあり、現在必要なことは、電信企業との直接接触や協力関係構築を更に強化することのみだ。また、競合他社も中国市場に関心を寄せていることを表明している。2008年9月、国務院法制事務室が公布した「外資系電信企業の管理規定」では、外資系企業が中国電信企業へ投資する場合には20億元以上の投資金額が必要との従来の規定を、10億元に引き下げた。これは、外資系電信企業に対する中国市場への参入奨励を示すものであり、日中双方の電信企業による業務提携が、中国の電信業界再編をきっかけとして大きく飛躍することは間違いない。


コラムニスト CCID Ccid
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最終更新日 2012-11-14

 

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