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中国情報産業の転換が日本企業にもたらすチャンスと課題 (2008年10月27日)

 世界的なマクロ経済状況を見ると、国際市場では「ニューエコノミー」の飛躍的発展に衰退の兆しが出てきた。このような衰退傾向の中で、グローバル経済システムに組み込まれた国々はいずれも、自国だけ無関係という訳にはいかない。中国経済もすでに過去の高成長・低インフレ期から、高成長・ある程度のインフレが相まった新しい時期にさしかかっている。こうした状況のもと、中国の情報産業は、まさに転換と変革の正念場にある。産業調整の理念を明確に持ち、産業発展の重点をしっかり理解することにより、日本企業が新たなチャンスをつかみ、市場開拓の基本条件を把握することができる。

外需減少とコスト上昇という二重の重圧により、中国情報産業は変革を迫られている
 中国の情報産業は、国民経済の基盤であり、支柱であり、また先導役でもある戦略的産業として、その産業ポジションが全局面に影響を及ぼす。同時に、ハイテク産業のコア産業であり、模範産業でもあるため、国際市場動向の影響を直接的かつ敏感に受ける。一つには、情報産業の輸出競争が白熱化する一方で、外需が急激に減少していること。もう一つには、中国の製造コスト上昇が今後も続く見込で、情報産業の比較優位性にマイナスに作用することが明らかであることだ。中国の電子情報製造業の全体規模は、現在は世界トップレベルであるが、中国情報産業の比較優位性は、かなりの程度、労働コストや資源価格、環境コストの安さの上に成り立っていることを、我々はしっかり認識すべきである。外需減少やコスト上昇という二重の圧力を受けて、加工貿易を主とした元々の産業発展モデルが継続しにくくなっている。産業は重要課題に直面している。低利益かつ対外依存度が高いことが特徴的なこれまでの中国情報産業は、今まさに転換・変革の正念場にある。

中国情報産業の今後の発展理念は、サービス化、情報化と工業化の融合、イノベーション、省エネ・環境保護
 中国情報産業が将来発展のために転換をはからねばならなくなった根本的な原因は、産業構造の不合理さやイノベーション力の弱さ等、深層的課題に起因している。今後の理念と重点は、産業構造の調整やバージョンアップ、コア競争力の再構築に求めることになるだろう。産業構造の調整に関しては、加工製造を主とする不利な産業構造を改善し、できるだけ早期にサービス型産業にバージョンアップさせ、ソフトウェアや情報サービス等のソフト情報産業を発展させることだ。ソフトウェア業やサービス業は、製造業に比べると、生産資源の占有が少なく、知的密度が濃く、産業付加価値が高く、利益率が高く、対外依存度が少ないという優位性がある。これこそが、今後の産業発展の重点分野であり、情報産業の発展指針にも合致する必然の道である。特に強調したいのは、電子製造業は、今後長期にわたり、情報産業の主体であり続けると予測されるため、イノベーション型で高効率の産業へのバージョンアップの度合や成果が、産業全体のバージョンアップ化に直接影響することだ。イノベーション力の向上や産業チェーンのハイエンド化を図ることにより、産業と企業の持続的発展力を効果的に養い、電子製造業を「大」から「強」へ、「製造」から「創造」へと転換させることができる。


 産業のマネジメント構造面に関しては、工業・情報化部の設立により、情報産業の転換型バージョンアップや構造調整にチャンスが訪れた。情報化により工業化をもたらし、工業化により情報化を促すことによって初めて、工業化と情報化の融合を促進することができ、「高度な科学技術力を有し、経済効果が高く、資源消費も少なく、環境汚染が少なく、マンパワーに優れるという強みを十分に発揮した」新型工業化の道を歩むことができる。新たな市場環境の下で、情報産業は「製造」者である以上に、創造者かつ指導者であるべきであり、伝統的産業の発展を強力にバックアップし、経済発展モデルのように転換を促す。

 技術面のバージョンアップに関しては、主体的なイノベーションにより、産業のコア競争力を引き上げることを基本理念としている。企業を主体とし、市場を指針とし、産学が連携した情報産業技術のイノベーションシステムの枠組みの中で、ICやソフトウェア、電子部品等のコアとなる基礎分野の技術イノベーションを強化していく。同時に、情報産業が急速に発展するにつれ、エネルギー消費や電子汚染等の問題も徐々に露呈し拡大している。エネルギーや国際的な環境保護に関する圧力に直面し、省エネ・排気物抑制が国家政策になり、今後は省エネやエネルギー消費抑制、環境汚染削減、リサイクルに関する具体的措置が一層強化されるであろう。


国情報産業の転換が日本企業にもたらすチャンスと課題
 中国の情報産業発展に向けた新情勢に直面し、日本企業はその中に新しい市場チャンスを見出すだろう。

 1、ソフトウェアと情報サービス産業がもたらすチャンスと課題
 ソフトウェア業と情報サービス業が、産業の構造調整やバージョンアップの指針となる。

 まず、ソフトウェア分野では、組込ソフトウェアと業界向けソフトウェアの需要が拡大している。日本の組込ソフトウェアの研究開発能力は高く、移動通信、情報家電、カーナビ等の組込ソフトウェア開発分野で強い優位性を有している。金融、電信、物流、交通、電子政府、製造、中小企業等の業界向け応用ソフトウェア分野でも成熟した技術や実用化に定評がある。これらはいずれも、現在の中国ソフトウェア市場で切迫したニーズがある。

 中央政府から地方政府まで、情報サービス分野を情報産業発展の核として期待している。そこで、各級政府は産業発展の可能性に積極的に関与しており、具体的には、政府サポート、産業計画、専用基金などを実施している。中国情報サービス業は大きく、マスコミサービス、コンテンツサービス、技術サービスの3分野に分けられる。マスコミサービスには、ラジオ・テレビネットワーク、通信ネットワーク、インターネットの基礎サービスが含まれ、この分野はその特殊性から、開発度が低く、日本企業にとってのチャンスは少ないだろう。一方、コンテンツサービスと技術サービスは、情報サービス業の重点中の重点として、各級政府が奨励・サポートする分野で、日本企業の進出が期待される分野でもある。電信分野の付加価値サービスやインターネット分野の付加価値サービスは、通信サービスが充実し、消費大国である日本にとっては、言わずもがなの強みであり、日本のサービスの内容やサービスモデル、コンセプトのどれをとっても成熟している。アニメ産業を例にとると、日本では、企業サポート、ハード建設、人材育成、製品開発、産業分布、国際交流等の分野で、非常に成熟したモデルがあり、中国は手本にしたり、手法を導入したりすることも可能だ。また、中国の関連企業も日本企業と協力したい分野だと考えている。さらに、サービスのアウトソーシング分野では、日中双方の企業に非常に大きな協力の可能性がある。

 日本企業にとっては、ソフトウェアサービス業が直面する課題は、主に中国ユーザーのニーズや文化背景に対する十分な理解や適応から来ており、さらには、言語問題も一つの課題である。
 
 2、工業と情報化の融合がもたらすチャンスと課題
 「神舟」シリーズの有人宇宙船、「梟龍」や「殲十」等の戦闘機から、リニアモーターカーや三峡ダムの大型水力タービンまで、我が国は各工業分野で大きな成果をあげており、いずれも情報技術の広範な実用化と切り離すことはできず、情報産業は工業化の推進補助器である。工業と情報化の融合により、情報化の基礎の上に更なる工業化が実現する。製品の情報化、生産工程の情報化、市場ニーズや生産供給の情報化、政策の情報化、マネジメントの情報化の実現により、伝統的な産業競争力を向上し、工業の質を引き上げた。その重点施策は、一つには、コアとなる基礎産業の発展を成し遂げたこと、つまり、IC、ソフトウェア、部品、電子専用材料、電子専用器具などの基礎業界分野を指している。もう一つは、応用電子産業の発展を迅速に進めたことで、情報技術と伝統産業の融合に早急に取り組み、自動車や石油化学、電力、工作機械、金融等の応用電子製品・設備の発展を重点的にサポートした。

 工業と情報の融合を背景に、中国の伝統工業は、情報技術、IT製品、ソリューション等のニーズに対応して産業のバージョンアップを図る姿勢を示しており、同時に、政府は関連する製品やサービスに従事する企業に寛大な政策環境をとっている。日本の伝統産業の成熟度は高く、IT実用化分野でも多くの成功例がある。とりわけ、金融、自動車、商業貿易、交通の分野での情報化度合が高く、実用化も進んでおり、それらの技術や製品、応用、経験は、中国企業にも必要なものである。

 課題に関して述べると、中国の伝統工業は、日本の工業に比べて、運営モデルもマネジメント理念も、ITの基礎も、非常に大きな格差がある。日本のIT企業が、中国企業の特色や個性化のニーズについて知りたいのなら、カスタマイズされたサービスや製品を提供するとよい。その上で、中国本土のIT企業は、先天的優位性を携え、互いの長所を武器に日本企業と競い合い、同時にまた、そこには相互補完の協力のチャンスもある。

 3、主体的イノベーションがもたらすチャンスと課題
 今後しばらくは、中国情報産業、ひいては中国工業全体にとって、主体的イノベーションがコア競争力を高めるための基本戦略になるだろう。情報産業の自主的イノベーションには、主に、原始イノベーション、集積イノベーション、消化吸収を経た再イノベーションという3パターンがある。

 原始イノベーションは、原理、概念、技術、応用から市場まで、一貫してイノベーションを創出する形式をとり、難易度が高く、最も重要なものである。主に中国本土企業によるもので、日本企業を含む外国企業のこの分野への参入の可能性は小さい。集積イノベーションは、合理的かつ効率的に、知的財産権を持つ既存の技術や資源を利用するもので、システムの組み合わせや互いの強みを補完するもの。この分野では、外国企業が中国市場の既存の技術や資源の基礎を利用することが可能で、中国企業と提携してイノベーション創出にあたることができる。外国企業にとって最大のイノベーションのチャンスは、導入・消化・吸収・再イノベーションで、これはイノベーションを先導する者のコア技術を買い取ることを指し、その技術基礎を把握した上で、再イノベーションを行うというパターンである。日本企業は、IC、通信技術、RFID(Radio Frequency Identification)、コンシューマエレクトロニクス等の多くの分野で先端技術を持つ強みを、より広い市場を持つ中国市場で発揮することができる。

【おわりに】 
 中国情報産業は、グローバル経済の流れの中で、転換・バージョンアップをせざるを得ない正念場を迎えている。ソフトウェア業と情報サービス業、工業と情報化の融合、自主的イノベーションの重視といった新たな産業措置をとる必要があり、日本企業を始めとする外国企業に対する挑戦になる訳だが、今後の中国情報産業市場における発展の可能性は、間違いなく挑戦を凌ぎ、はるかに大きな可能性がある。


コラムニスト CCID Ccid
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最終更新日 2012-11-14

 

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