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徳川家康の「権謀術数」と直江兼続の「義」 (2009年04月29日)

 今、中国では「徳川家康」がブームとなっているそうです。

 ブームのきっかけとなったのは、山岡荘八著「徳川家康」の中国語版全13巻。2007年秋に中国で出版されてから、会社経営者、ホワイトカラー層の絶大なる支持を得て、数十万部売れたら大ベストセラーと言われる中国の出版業界において、既に200万部を売り上げたとのことです。

 「徳川家康」が会社経営者やホワイトカラー層の支持を得ているのは、「日本では経営の神様として崇められている松下幸之助翁が社員の必読書として指定し、その理解度で幹部を査定していた」とか、「中曽根康弘元首相が内閣の構成員全員に必読を勧めた」といった逸話が伝わり、「徳川家康の人生哲学の中に、日本及び日本企業の奇跡の発展の秘訣が隠されているのではないか」という理由かららしいです。

 この山岡荘八著「徳川家康」の中では、家康は「苦労人、不屈の精神の持ち主、平和を求める理想主義者」として描かれていますが、日本では「権謀術数の限りを尽くす狸親父」というイメージもまだまだ根強く、力の信長、知恵の秀吉と比べると、人気も今一つであるように思います。

 しかし、「孫子の兵法」、「三十六計」の例を出すまでもなく、目的達成のためには手段を選ばないマキャべリスト(権謀術数主義者)を賞賛する傾向のある中国では、司馬遼太郎の「関ヶ原」が中国語に翻訳されて狸親父の実態が暴かれたとしても、家康の人気はゆるぎないのではないかと思います。

 一方の日本。今年のNHKの大河ドラマ「天地人」は、一生「義」を貫いて主君・上杉景勝に仕えた戦国武将・直江兼続の物語。秀吉から山城守、山形30万石の贈与など、度々引き抜きのオファーを受けますが全て断ったという、いかにも日本人が好きそうな、逆に中国人から見たら「この人、頭が悪いんじゃないのか」というような人物です。

 中国ではいまだに「中国人に騙された」と言って泣く泣く撤退していく日本企業がたくさんありますが、「義」を貫く直江兼続が大好きな日本人が、「権謀術数」の限りを尽くす狸親父・徳川家康を賞賛する中国人の中に放り込まれれば、身ぐるみ剥がれてしまうのはある意味当たり前のことです。

 しかし、その一方、今の中国で最も必要とされているのは「義」だと私は思います。なぜなら「権謀術数」だけでは人の心は動かせないからです。「義」のない会社には従業員は居付きませんし、「義」のない独裁政権には人民は付いていきません。

 今、中国人が本当に学ばなければならないのは直江兼続の「義」であり、逆に日本人が学ばなければならないのは徳川家康の「権謀術数」であると私は思います。

コラムニスト 柳田 洋 Yanagita
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最終更新日 2012-04-27

 

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