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80后、皇帝から蟻へ大幅降格 (2010年01月01日)

 就職超氷河期により増加する中国の大卒ワーキングプア。

 彼らの多くは蟻のように集まって家賃や食費が安い大都市郊外の村に住み、蟻のように群れを成して毎朝都市の中心部に通勤するため、「蟻族(いーずー)」と呼ばれ、今中国で注目されています。

 「蟻族」が注目されるきっかけとなったのは、2009年9月に廉思という北京大学の博士研究員の方が出版した「蟻族-大学卒業生が集まり住む村の実録」(広西師範大学出版社)という本です。

 この本によれば、「蟻族」は大卒ですが、失業あるいは半失業の状態にあり、仕事はあったとしても臨時雇い。大都市郊外の村にある、家賃は安いけれども、狭くて、衛生状態の悪い賃貸住宅に数人共同で住んでいます。

 月収は1000元(13000円)前後、うち、300元(3900円)が家賃支払いに消えていきます。食事は1日2回だけ、都市の中心部にある職場までの通勤はバスで片道2時間、往復4時間かかるのだそうです。

 こうした「蟻族」は北京だけでも10万人、全国では100万人以上いると推定されています。

 この本の著者は「蟻族」を、「農民」、「農民工(出稼ぎ労働者)」、「下崗職工(リストラされた失業者)」に続く第4の社会的弱者集団と分類しています。

 以前の中国では、農民が自分の子供を社会的弱者である農民という「カースト」から解き放つために、唯一の収入の源である田畑まで売り払って子供の大学進学資金を準備する、という例もありましたが、今や大学を出ても将来が保証されることはなく、「農民」と同じ社会的弱者集団である「蟻族」になってしまう可能性もあるのです。

 「蟻族」の大部分は22-29歳、1980年以降に生まれたいわゆる「80后(ぱーりんほう)」です。「80后」と言えば、1979年に始まった一人っ子政策のおかげで、両親と両方の祖父母を合わせた6つのポケットから惜しみなくおカネが注がれ、「小皇帝(しゃおほぁんでぃー)」として甘やかされるだけ甘やかされて育ってきたと言われる世代です。

 彼らは大学を卒業して、今までの「皇帝」からいきなり「蟻」まで大幅に降格され、外の世界の厳しさを身に沁みて体験しているものと思います。

 しかし、見方を変えれば、これからの中国を担っていく「80后」の世代が、甘やかされた「皇帝」のまま育っていってしまうより、「蟻」のように踏まれても踏まれてもくじけない不屈の精神を持って、苦労をしながらコツコツと地道にのし上がっていった方が、彼らのためでもあるし、延いては、中国の将来のためになるのではないか、と私は思います。

コラムニスト 柳田 洋 Yanagita
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最終更新日 2012-04-27

 

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