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「中進国のわな」 (2011年07月01日)
先日、ADB(アジア開発銀行)は2050年のアジア経済の見通しを発表しました。
それによれば、中国などが順調に成長すれば、2050年にはアジア全体のGDP(国内総生産)は148兆ドルに達し、世界経済に占める割合は現在の27%から51%と半分を超えるまでに増加、「アジアの世紀」が訪れる、と予測しました。 米証券大手・ゴールドマンサックス社が2007年に発表した2050年の各国のGDP予想によれば、1位は2位のアメリカを2倍近く引き離してダントツの71兆ドルで中国、3位がアメリカとほぼ同額の38兆ドルでインドです。2カ国のGDPを足すと109兆ドル。「アジアの世紀」とは言ってもこの2カ国でアジア全体の70%以上を占めることになりそうです。 ちなみにゴールドマンサックスの予想では、2050年の日本のGDPはインドネシアにも抜かれて8位、中国の1/10以下の7兆ドルに止まると見られています。この予想、良い意味で裏切りたいものです。 さて「アジアの世紀」の到来を予測したADBですが、一方で中国、インド、インドネシア、ベトナムなどが「中進国のわな」に陥って成長が減速し、所得水準も頭打ちになれば、2050年のアジア全体のGDPは61兆ドルと楽観シナリオの半分以下にしかならず、世界経済に占める割合も32%までしか伸びない、と警鐘を鳴らしています。 「中進国のわな」とは何か? 「中進国のわな」とは、低所得国から中所得国に移行し、安価な労働力を武器に輸出で稼ぐ、というビジネスモデルが通用しなくなると、輸出産業はよりコストの低い低所得国に勝てなくなり、かと言って高い技術力を持ち高付加価値の製品を生産する高所得国にも勝てず、中途半端な状態で成長が伸び悩む状況に陥ることを言うそうです。過去には南米の中進国がこの「中進国のわな」にはまり、成長が伸び悩んだのだそうです。 現在、中国はまさに人件費の高騰により、「世界の工場」の座を、ラオス、ミャンマー、バングラデシュなどの低所得国に譲りつつあります。そして経済成長のエンジンを輸出と投資から消費に切り替えることにより、「世界の工場」から「世界のマーケット」への脱皮を図ろうとしています。 中国は「中進国のわな」にはまることなく、産業を高付加価値化して経済成長を続けることができるのか。 今後数年間の中国の経済構造改革の成否は、中国のみならずアジアの未来を左右すると言っても過言ではない、と私は思います。 |
コラムニスト | 柳田 洋 |
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最終更新日 | 2012-04-27 |