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100万人の労働者を100万台のロボットに (2011年09月30日)

 先日、台湾系の中国大手電子機器メーカー・富士康科技の郭台銘総裁は、今後3年以内に100万台のロボットを導入する方針を示しました。

 同社のロボット数は現在わずか1万台。これを来年には30万台、3年後には100万台にするのだそうです。具体的には塗装、溶接、組立作業などのラインにロボットを導入し、省力化や生産効率の向上を図る、とのことです。

 富士康と言えば、中国の豊富な労働力を活用した人海戦術のビジネスモデルで急成長を遂げ、現在は中国国内で100万人以上の従業員を抱える会社です。一時は世界の工場・中国を象徴する企業として名を馳せましたが、ここ数年の中国での人件費高騰や、昨年の同社従業員連続自殺事件の発生により、人海戦術ビジネスモデルの転換を迫られていました。

 その富士康がロボットの数を3年間で100倍に増やす方針を打ち出した、ということは、「豊富で安価な労働力を使った人海戦術で、コストが低く競争力があるモノを作って、それを世界市場に輸出する」という中国の「世界の工場ビジネスモデル」が正式に終焉を迎えたことを意味します。今後中国の工業は、既にロボットを多用している先進国の企業と同じ土俵に立って世界市場で戦っていくことになります。

 ロボットは賃上げ要求をしたり、自殺をしたりせず、黙々と働いてくれますので、富士康の経営の安定には大きく貢献すると思われますが、一方で、100万人の労働者が100万台のロボットに置き換えられてしまったら、大量の失業者が発生するのではないか、という心配をされる方もいらっしゃるのではないかと思います。

 しかし、ご心配なく。無尽蔵に供給されると信じられてきた中国農村部の余剰労働力は、高度経済成長により簡単に底を突き、現在はどこの工場も労働者の確保に四苦八苦しています。今や工場労働者は引く手あまたの超売り手市場であり、業種や職種を選ばなければ働き口はいくらでもあるのです。

 そして、この状態は今後緩和されるどころか、ますます厳しくなっていくことが予想されます。

 現在、中国では15-59歳の労働力人口の増加率が大幅に鈍化しており、2017年頃にはピークを打って減少に転じることが予想されています。しかし、中国は今後も、増え続ける高齢者を養っていくために高度経済成長を続けなければならず、人手不足はどんどん深刻化していくものと思われます。

 次期国家主席就任が確実と言われる習近平氏が、2009年12月に訪日した際に、分刻みのスケジュールの中、唯一の企業訪問先として選んだのが、トヨタでもパナソニックでもなく、産業用ロボットを生産する安川電機だったのも、こうした中国の近未来を見据えてのことだったのでしょう。

 ロボットにできることはロボットに任せて、人間はロボットにはできないもっと付加価値の高い仕事をする。

 今回の富士康のロボット大量導入計画発表は、労働力人口が減っていく中で高度経済成長を続けなければならない中国の、今後の方向性を示す象徴的な出来事なのです。

コラムニスト 柳田 洋 Yanagita
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最終更新日 2012-04-27

 

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