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中国小売業でスタッフがやめる理由とは (2013年02月27日)

 中国小売業でスタッフがやめる理由は、3つに分けるとわかりやすい。

 中国は離職率が高いということを雑誌の記事などでよくみかけます。では中国小売業では実際どうなのでしょうか?

 離職率が高いのは中国なので仕方がないと感覚的に捉えていたのですが、ちょっと待てよと疑問を感じるようになりました。

 1,000人以上の中国人スタッフと交流しているうちに、十把ひとからげに考えるのはだめなのではないかと思うようになってきました。実は、中国の小売業では給料帯ごとに3つのパターンがあることに気付いたのです。

 月給帯にもいろいろ幅があるのですが、月給1,600元の店舗スタッフから月給10,000元以上のエリアマネジャーまでそれぞれに何のために働いているか動機はいろいろあるものです。ここは日系企業ではないので、日系企業の論理をあてはめて考えることはできません。しかし、中国ローカル企業の小売現場で働くひとたちが、どんな条件でどんな思いを抱いて働いているかを知ることは、競合店の内情を知るという意味で貴重なデータとなるのではないでしょうか。全ての中国ローカル小売業にあてはまるわけではないと思いますが、弊社1000人のサンプルから断定的に言わせていただきます。

 我々の店舗は中国全土に分布しており、ハルビン、審陽、武漢、成都、広州、青島、北京、天津、上海など260店あります。中国小売業で働く従業員の転職感について2つに分けて考察してみます。

 1つ目は、従業員全員が収入アップを強く望んでおり、転職実行が簡単であること。従業員全員がさらに給料が上がる機会を虎視眈々と狙っているということです。これでいいかな、こんなもんだろうと思っている人はゼロだと思った方がいいです。機会があればいつでも乗り換えます。現状維持でOKだと言っている人はいますが、条件に合い、給料が高い仕事がもしあれば即実行です。それが当たり前だと皆が思っており、隣の人が転職すると「おめでとう。いくらになったの?」と聞くのです。なぜそんな簡単に転職できるのかと日本人であれば不思議に思います。会社との労働契約がシンプルなためです。躊躇不要。誰もが簡単に乗り換えができる。それは企業の福利厚生が手厚くないということでもあります。企業側としても能力が高い人を即戦力で登用したいと思っています。ネットでの求人や就職斡旋会社も日本以上に充実しています。

 2つ目は、給料帯別スタッフの思考法(3類型)です。

 【1600元~2000元の店舗スタッフ:ヒグラシ型】

 仕事はできれば楽なほうがよく、手抜きできるにこしたことはない。隣の芝生が青く見えればいつでも他の仕事に移ってもいいと思っている。通勤時間はできる限り短く、交通費がかからないほうがいい(交通費は支給されず持ち出しになることが多いため)。新しい革新的なやりかたに興味を示すわけでもなく、面倒くさいこと、これまでと変わることに対して拒否感が強い。ただし、反発するのも億劫なので会社が決めたことには従う(ただし積極的にではない)。掛け持ちで他の仕事をしている人が60%以上を占める。これらの人たちは1週間ずっと休みがないので、できれば仕事中に休息したいと考えている。自分の身体が疲れないように調整したいと思い、業務時間中にそれを実行している人が多い。日本の感覚で言えば言語道断だが、事実である。

 【3000元~5000元の店長クラス:イチかバチか型】

 現場の叩き上げでスタッフから店長になった人たち。彼らにも迷いがある。自分の能力に圧倒的な自信(過信)を持っているにもかかわらず、自分の能力に限界も感じている人が多い。20年以上昔、日本の小売業で店長に絶対的な権限があり“野武士店長”が台頭した時代。それを思いだしていただければわかりやすい。中国では店長に多くの権限がある。彼らは、できればすぐにでももっと給料の高い仕事に移りたい。でも将来のことを考えると今の給料でもここで経験をもう少し積んだほうがよいのではという迷いあり。自分はエリアマネジャーになれるという自信と不安の間で揺れ動く。圧倒的に前向きなタイプと醒めているタイプに分かれるが未来への可能性も捨ててはいない。技術や能力に飢えている人が多い。まだ、自分の可能性を信じている。まだまだ上がれると思っている。このクラスの人をいかにして引っ張りあげ、モチベーションコントロールできるかが企業にとって重要である。彼らが本当の意味での企業の中核になる。

 【8000元~15000元のエリアマネジャークラス:崖っぷち型】

 本当に実力がありその先へ登れる人は、20人に1人いるかどうかである。個人の能力と入社時の手違いにより大きく給料が異なるクラス。同じエリアマネジャーでも給料の格差は2倍以上ある場合がある。自分の能力の限界にぶちあたっている人が多い。16歳、18歳、または20歳と若い頃から働きはじめ平均30歳になるとぶち当たる壁がある。エリアマネジャーとゼネラルマネジャーの間には大きな谷がある。もしかしたらオレもうこの会社にいてもこれ以上昇れないかも。これが離職の原因であることも多い。だから上司を選ぶ。上司によっては、まだ働き続けるという選択肢もありとなる。それはなぜか?良い上司に就くと学べることが多いからである。実力をつけることで市場価値が上がる。転職後に年収が上がる。生涯年収をいかにして上げるか?これらの人たちは切実にこれを考えている。ただ、このクラスの人たちにとって転職はシビアである。転職後すぐ高いポストにつき1週間後から現実的な成果を出すことを求められる。ハッタリが効かない世界が始まる。

 では、ここから大切な大切な部下の慰留手法を具体的に明かします。これも3類型に分けて対応するほうが効果的です。どうしても手元に置いておきたい。でも給料を上げるのはすぐには難しい。そんな方へのヒントになれば幸いです。辞めてほしくない大切な部下に対してどのような手段が有効であるのかを自分の経験に基づき書かせていただきます。多くの実話から観察分析判断へと導いた結果が下記の3つです。

 その1【1600元~2000元の店舗スタッフ:ヒグラシ型】
   →対策は「実弾」

 仕事はできれば楽なほうがよく、手抜きできるにこしたことはない。いつ転職してもいいと思う人たちです。彼らは、この3類型で最も短史観的で現実的な思考をしています。

 これらの方への対策は、『実弾』です。このクラスの方でどうしても残したい人は、個別の対応が有効です。全体の給与のベースアップが難しいのであれば、昇級させること。担当者であればレジ係へ。さらに優秀であれば、副店長へ。まず、月給が上がることを告げ、先に昇級させてしまうことです。口約束だけで先伸ばすことは効果がなく、他社へ逃げられてしまう前に即対応が必須です。実は、この店舗スタッフクラスの中には、金の卵が眠っています。臨店を多くして、多くの人と逢い、金の卵の発掘をすることが管理者、役職者に求められる能力です。とにかく来月の給料の手取りが変わるように引き上げる。もし同じ店に副店長がいれば、もともといる副店長は他店に移動させるなどの即効策が必要です。

 エリアマネジャーや店舗運営部のマネジャーには、このような人事政策をするように口頭で教え、目を光らせるようにすること。店長を新たに新規採用するよりも下から能力のある者を引き上げるほうが、失敗が少なく有効です。

 その2【3000元~5000元の店長クラス:イチかバチか型】
  →対策は、「売上を上げるためのOJT」

 自分の能力に圧倒的な自信(過信)を持っているにもかかわらず、自分の能力に限界も感じている人たち。企業の中核、屋台骨。これらの人たちには、「OJT」On the Job Training)つまり現場で手取り足取りレベル、面対面で仕事を教えることが必要です。それも、「売上の上げ方」について。中国の小売業において個人や店舗の評価は、1に売上、2に売上、34がなくて5に売上です(笑)。こうやってみて、ほれ、どう?売上は?目が光りはじめます。夜行性動物のように。そして、そのトリックであるロジックを現場で「OFF-J-T」する。(OFF the Job Training)つまりなぜ売上が上がったのかを数字と論理を使って現場で説明する。そこから信者となります。「これは、オレに必要だ」と彼らは直感的に感じます。この直感に素直な人たちが伸びます。そして彼らは、「ほかにも教えてよ」とすりすりしてきます。

 ここで注意してほしいことがあります。彼らは、メンツとプライドが大切です。本当にあなたが必要としている人が素直な対応をしない場合も多くあります。教えられることが悔しいとか恥だとか、自分が辱められていると曲がって捉えることもあります。なので、こちら側には忍耐力が必要となります。違うパターンで何度も繰り返すのです。手を替え品を替え、遠からず近からず、定期的に接近します。そこで、できるかぎりその店長の良い部分を探して、具体的事例を出しほめつづけます。ホメホメ作戦です。ほめてほめて少し教える。「あんたの言うことを少しやってやってもいいかな」いつのまにかこちらのペースになります。それを繰り返すことで、売上がついてきます。信頼関係も深まります。本当に能力があり残したい人は、実績を上げさせ、会社に認めさせ、実弾です。モチベーションが下がらないように定期的なコンタクトが必要です。有効な方法は遠隔地であっても、数値を報告させ、携帯のメールやEmailでまめなコンタクトをとるとさらによいでしょう。エリアマネジャーに引き上げる機会を常に狙っておくことです。

 その3【8000元~15000元のエリアマネジャークラス:崖っぷち型】
  →対策は、、、、、

 平均値を30歳とする、エリアマネジャークラス。ハッタリが効かないこの世界でシビアな能力な求められ、上がれるか転職するか迷っている人たち。彼らに欠けているのは、グランドデザインを描く能力です。管理能力、徹底力は非常に高い。会社から要求されたことは、部下に無理をかけてでも徹底的に執行する。徹夜も残業も関係なくやり抜く根性をみせてくれます。驚くほどの実行貫徹力があります。しかし、言われたこと、指示されたことしかできないという欠点があります。彼らは自分自身このことを知っています。外山滋比古さんが『思考の整理学』のなかでおっしゃる「グライダー」なのです。「グライダー」と「飛行機」の違いは、エンジンがついているかどうかです。自分で飛ぶ方向や、止まる判断ができるかどうかです。彼らは、自分がワーカーの頃からイケイケどんどんやれやれ主義の中で育ちました。仕事上、自分で観察分析判断し、仮説を練り上げ、検証し、PDCA(Plan-Do-Check-Action)を回すということをしたことがありません。あんたが社長だったらどういう判断するの?とわたしが聞くと、もじもじするのみです。

 彼らへの処方箋は、経営判断に繋がる思考方法のOFF-J-Tです。彼らと日々、「なんで?」「なんで?」関西弁で繰り返すことで。彼らは自分の欠落部分と今後の方向性についての自覚が生まれてきます。ここでも我々に必要なのか、忍耐です。時間がかかります。

 素養のある人を見抜き、「なんで?」攻撃を繰り返す。ここから彼らは、上司であるあなたを必要とするようになります。自分で考えさせ、正しい方向に導いてあげること。そうです。思考方法を正しくしてあげるということです。ただ、20人中1人しか上昇できる素養はないでしょう。それでもこの問いかけを繰り返すことで、とても優秀なエリアマネジャーを育てることはできます。あなたは自由に羽ばたいてもいいよと思えるくらいのおおらかな気持ちで部下を育ててみたいものです。あなたが今後必要であるときに、あなたが大切に育てた部下がきっとどこかで力をかしてくれることがあるはずですから。

 次回予告、第2話 日系ドラッグストアが切り拓きつつある活路 in 中国

コラムニスト 富井 伸行 Tomii
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最終更新日 2013-02-23

 

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