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日系ドラッグストアが切り拓きつつある活路in中国 (2013年03月11日)

  『なぜ日系ドラッグストアは、中国でうまくいかないの?』

 よく質問されます。同業の方からも、知人からも。日本でお馴染みのドラッグストアがなぜ、中国に進出しないの?と。あれば便利なのにと。「ぜったい売れるよ」と。ふだん何気なく不思議に思っていることを分析してみます。

 鳥の目と虫の目で分析することで客観性を高める手法をとります。
 鳥の目は、中国285店舗バラエティストア売上アップ責任者という「商売敵」からの目線、虫の目は、中国に8年間住んでいる地元の「お客」としての目線で。

 では、ふだんあまり意識したことのない、日本のドラッグストアの特徴から。

 (1)薬が売っている(買える)
 (2)日用品が安い シャンプー、食器洗剤など
 (3)店がたくさんある(便利)駅に近い繁華街などにたくさんありますね

 ということは、少しだけ専門的に言えば、3つの業態機能があると言い換えることができるかもしれません。

 (1) 薬局機能
 (2) スーパーマーケット機能
 (3) コンビニ機能(24時間営業の店は少ないけれど)

 では、中国に出店している日本のドラッグストアはどうでしょう。まず薬が置いてありませんね。香港系の『ワトソンズ』の店でも薬は置いてありません。目薬を探したら1つか2つのアイテムしかない。不思議です。日用品は、置いてあります。しかし、超市(スーパーマーケット)や、カルフールそして、ワトソンズに勝てるアイテム数と価格ではありません。現在はまだ、便利な場所にどこにでもあるというコンビニ(便利)状況にもなっていませんね。それはなぜか。3つの視点でその理由を考えたいと思います。

 【1】業態構造上の問題

 日本のドラッグストアは、薬、化粧品、日用品、雑貨を扱っています。上海での日本ドラッグストアの出店に関しては向学のために必ず視察調査に行きますが、何屋さんなのかわかりません。(笑)中国の方にとっては、もっと分からないことでしょう。逆に考えてみましょう。中国の方にとって業態に固定観念があります。ここが一番日本と違うところです。

 (1)薬屋は、薬の専門店。チェーンである場合が多い。病院に行くまでもないときに薬を買いにいくところ。
 (2)ワトソンズ&マンニン。これは化粧品まわり(低価格~中価格)と日用品です。
 (3)ブランドを指定したい化粧品は、百貨店か空港です(中価格~高価格)。

 最近ではフランス系のセフォーラが(2)と(3)の業態の間に入り、多店舗展開をしていますが、苦戦しているようです。日本のドラッグストアは、中国に出店する際に(1)の薬を置くことができません。(2)と(3)をミックスしさらに、一部文具や衣類下着や雑貨を置き、品揃えが雑然としてきます。売上が悪くなるとさらに日本のメーカーが中国でつくっているものを並べはじめて売場を埋めてしまうという状況です。今のやりかたでは、中国の小売市場に認知され、継続発展するのは難しそうです。

 初期投資に大量の資金を投入するというやりかたをとっている会社もまだ見当たりません。(資金の有効活用という意味で)過去日本の電機メーカーが、個別に競争をしていたので、サムスンに開発費で負けたのと同じということを繰り返してしまう前に、勝ち残る企業が生まれることを強く期待しています。難しいのは、薬という決め手がないからかもしれません。しかし、日本人は創意工夫の民族です。その足枷があるからこそ、革新が生み出せるはずです。『楊令伝』からの、力強い言葉を拝借して、「奇策ではなく、意表をつく方法がないか。」まさに、これですね。

 【2】戦略上の問題

 どの業界の小売業においても同じことが言えると思います。
 『定位』(中国語でディンウェイ)
 ブランディングの位置づけという戦略がない。あったとしても弱い。お客に伝わらない。店構えと広告と店内の陳列の三つ巴で、「うちは、こんな店よ」と お客にアピールして認めてもらわないといけない。「こういう店なんだね」と認識していただき、さらに「こういう店があるよ」と皆さんに紹介し広めてもらい、固定客が増える。このサイクルがうまくまわらない。結果としてお客が増えないということは、これができていないからですね。どこかで止まってしまっているのです。でもそれが、どこで止まっているのかを真摯に科学的に現場で突き詰めない。最終的には撤退。個別のSKUや、メーカーに頼っている商品構成では、全体の戦略が組み上げられない。見せかけの売上高が増えれば商品は何を扱ってもいいという、何でも屋さんになっていく。「小ギレイだけど見るだけの店」から始まり、「ごちゃごちゃした小汚い店」へと坂道を転がり落ちていく。出店場所についても戦略ミスが発生しがちです。家賃が高いから街の中心から外れた商業ビルに入るか、それとも広告宣伝を目的として中心繁華街のショッピングモール内に入るか大きくは、この2パタンに分かれています。中心から外れた商業ビルのお客は、低~中所得者層が多く、一方繁華街では中~高所得者層が多い。前者は、客単価が上がらず買上客数も増えず、粗利益高が届かず撤退。後者は、家賃が高く、思ったより売上が上がらず損失が大きくふくらみ過ぎてさらに先によくなる見通しが立たずに撤退。でも本当の原因は、業態上の問題なのですね。結論は、再来店して買い続けてくれる固定客を多く確保できないこと。簡単に言うと、その店がお客に支持をされていないからです。なぜ、お客に支持をされていないのかを真摯に調べていないからです。ブランディングが曖昧だからです。買い物に対しておそるべきシビアな中国の方の特性を本当の意味で理解していないからです。

 ポイントは、『性価比』。(シンジャービ)と発音します。

 意味は、価格に見合った商品であるか?買う価値があるか?得だと思うものしか買わない。徹底的に比較する。すごくよく覚えている他店の価格。秀逸な暗記力。「あの店だとこれはいくらだよ。」そこにしか売っていない商品PB(プライベートブランド)の弱さも1つの原因ではあります。

 オリジナル商品が少ない。どのドラッグストアも売っているものはだいたい同じ。日本のNB(ナショナルブランド)のもの。PB商品あったとしても少ない。また、アピールの仕方も弱い。どうしたら買ってもらえるかの工夫をしていないに等しい。小手先だけ。本格的に熱意をもって取り組んでいないからです。現場のスタッフに丸投げにするのではなく、自分で入り込む。POP1つにしても、この1枚が本当に売上向上に貢献しているかを検証する泥臭さが大切なのです。売上対策はすごく簡単です。今すぐ始めることができます。

 1日4時間以上売場に立ち、お客の動向を見続けること。

 手抜きしないことです。スタッフからの意見を聞いてそのまま鵜呑みにするのではなく自分の目で耳で確かめること。通訳の方といっしょに売場に立ってもいいじゃないですか。お客の歩いた道筋。視線の動き。手にとり触れた商品。買わなかった原因を現場で自分の目で見極めることを習慣化する。これに慣れてくると他店での競合店調査の際に他店でも同じことができるようになります。市場調査とは、自店と他店の『お客の行動観察』が一番重要なのです。つい最近では、私は開店後3年経つ超不人気店(上海市内)に2週間毎日休まず入り込んで売場を変えつづけ、売上を目下30%上げることに成功しています。実践済みですのでご安心ください。(笑)やりかたによっては、3年続いた不人気店を2週間で人気店への階段の登り口に届かせることができるということです。

 【3】価格設定の問題(これが肝です)

 高いわ。買えないよ。日本人ですら、ためらう価格。これに尽きます。気軽に買える価格設定になっていないこと。商品の購入決定は、品質と価格のバランスを見て納得できたかどうか。再来店は、買った商品を実際に使ったあとで、「よし!もう一度あの店に行きたい。」と思えたかどうか。ナポレオンボナパルトの言うところの戦略と戦術についてここで復習します。戦争の際、最初のドンパチを境界線とします。それ以前を戦略、それ以降を戦術と呼びます。

 店舗が決まり商品構成が決まり価格設定が決まり、オープン以降は戦術。戦術は、数字とお客を見て、検証の繰り返しを行い、改善を繰り返すという手順です。これができていないはずです。大切なのは、戦術なのです。戦略は、おおまかでいい。しかたがない部分がある。しかし、戦術は、地味に泥臭く日々チョコチョコと修正していきつづけるべきものです。本当の勝負がはじまるのは、オープン後から。何が売れて何が売れないのかをアイテムだけで見るのではなく、棚単位でみる。ゴンドラ単位でみる。商品分類単位でみる。その店のレイアウトに対して、ゴンドラの配置がよくないときもあります。思った売上目標に達しない問題は?価格なのか陳列なのか、什器なのか、POPなのか、それとも広告宣伝の手段なのか量なのか、内装なのか。外装なのか。仮説をたて、現場で自分で売場に立って検証を繰り返す。売場の陳列や価格設定を、1つ1つ細かく見て改善しつづける。1つの店舗の数字をたてなおす。そしてそのあとで、初めて標準化に入るのです。数字を改善した状態で新しい体制を組み立てる。これが本当のチェーンストア標準化のスタート地点。日本で決まったチェーンのスタイルがあり、日本では成功した。それは日本での話。中国では、中国バージョンの勝ちパターンをつくること。そして、1店舗まず、成功。その後、標準化開始。これです。

 日系ドラッグストアは、創意工夫を重ねて少しづつチカラをつけてきた企業があらわれてきました。2ヵ月毎に行くと、創意工夫を積み重ねているところがはっきりと見てとれます。期待して定点観測を続け、勉強をさせていただきます。勝負はまさに、これからです。中国大手薬局チェーンの『復美』は、内装を完全モデルチェンジし、ワトソンズや日本ドラッグストアの要素を入れ込んだ店舗の展開をはじめています。これは目が離せません。

▼次回予告▼

第3話 中国NO,1スーパーマーケット RTマートの強み

ご期待くださいませ。

コラムニスト 富井 伸行 Tomii
参照URL
最終更新日 2013-02-23

 

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