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中国No.1スーパーマーケット、RTマートの強み(第三話) (2013年08月02日)

 店舗に行くたびに目に見えて進化し続ける台湾系大型スーパーマーケットRTマート(大潤発)。同社は中国に出店しているスーパーマーケットの中で、1店舗当たりの売上金額が一番の企業だ。立地選択だけでなく、1店舗あたりの売上を増やすための仕掛けのあれこれ。今回は、店舗を調査して“見えるしくみ”とその裏で支えている“見えないしくみ”について報告する。業界に関係なく、中国で働くビジネスパーソンにとって、学び実践するべき価値のあるノウハウが散りばめられている。このコラムの情報源について先に触れたい。中国の方(5人の元RTマートで働いた従業員)からのインタビュー、インターネットから得た情報、実際に筆者自身が最新店舗へ行き、現場で観察分析判断した情報。これをもとに10のポイントに分け、中国ローカルバラエティストアで働く筆者独自の視点で皆さんに紹介していきたいと思っている。

 【RTマート(中国名は大潤発)の『強み』、10のポイント】
 
 (1) 出店立地選定とビジネスモデル
 (2) 低価格を支える構造
 (3) サプライヤーと築くWIN-WIN関係
 (4) 顧客を増やす戦略
 (5) 商品と仕入のロジック
 (6) 売場づくりとサービス
 (7) アラームによるロス削減
 (8) 落とし込みと現地化
 (9) 独特の管理手法
 (10) 従業員の育成

 中国の現場で小売ビジネスに関わっていると、迷い立ち止まることが多い。何を手本にして良き師として定点観測し、学んでいけばよいのか。部分的に参考になる企業はたくさんあるが、全体として見習うべき企業は極めて少ない。弊社『一伍一拾』は、「中国で日本の100円ショップを!」というコンセプトからスタートした中国上海発のローカル企業である。弊社はこの4年で300店舗になろうとしている。この短い期間に数多の試行錯誤を繰り返し、ワンプライスショップという縛りから抜け出て、オリジナルブランドとしてのバラエティショップへと成長を遂げてきた。1日8万人のお客様に購入していただいている。弊社のような中国ローカル企業が手本にすべきは、日本の100円ショップなのか?香港系のワトソンズなのか?中国で成長をつづけるコンビニなのか?こうした迷いの中で、個人的にはRTマートを第一優先の師と位置付けている。なぜなら、同社は、弊社と同様に、日本企業に学び、欧米企業に学び、それを台湾で確立し中国化させ、中国の消費者に現在進行形で支持されている企業だからである。

 強み(1) 出店立地選定とビジネスモデル

 RTマートは、都市部から少し離れた地域へ重点的に出店し、賃料が高くなる中心街へはあまり出店しない方針をとっている。つまり郊外出店タイプ。そのため、駐車場スペースを大きく取り、さらに無料送迎バスを増やすことで客の不便を解消している。都市の中心街に住む、なおかつ車のない人にとっては馴染みのない店かもしれない。今後中国でも1世帯当たりの自家用車保有台数が増えてくる。同社のような郊外型の店は、それにより商圏人口が広がり入店客数と買上客数が増え、さらに自家用車の利用によって買上点数が増える。当然、客単価も上がる。無料送迎バスを維持すれば、自家用車を持てない顧客層も引き続き確保できる。自家用車の保有世帯が増加することにより、小売のルールは大きく変わる。日本においても、かつて自家用車の普及により中心街・駅前型から郊外型に消費ターゲットが移行した。以前は車という移動手段がなかったために、自宅から一番近いという理由でしか店を選ぶことができなかった。日用生活品は重く嵩張るものが多かったので、大きなスーパー袋を両手に下げて移動するのは大変だったからだ。最近ではインターネットを使った配達も、買いたい店を自分で決められる流れをさらに加速させている。

 またRTマートは、立地選定の巧みさだけでなく、「自店の建物内にテナントを多く誘致し、自店の圧倒的な誘客力を活用し賃料を高めに設定することで安定的に家賃収入も確保する」というビジネスモデルを確立している。テナントの面積が自店の面積よりも広いケースもある。テナント側としても、圧倒的な集客が見込めるので高い賃料を払ってでも入りたいと思うのである。

 強み(2) 低価格を支える構造

 RTマートは、中低価格帯の食品、非食品に限定して商品を構成している。そのため、この価格帯を実現できるサプライヤーを吟味して選定している。場合によっては商品ありきで選定する場合もあるが、大切なことはサプライヤーを選定する目だ。「価格に合った商品品質」と「供給時間品質」
と「供給量の品質」の3点を維持できるかどうかに重点を置く。

 また、低価格を徹底するために、RTマートの各店舗が毎日商圏内の競合店を調査している。1店舗あたり平均6~7人の調査部隊を常駐されており、半径5キロ以内の競合店から約1000アイテムの定番商品を定点観測で価格調査をしているのだ。仮に、競合調査の結果自社にとって利益が確保できないアイテムがあったとしても、場合によっては「競合には負けない価格」へ変更するケースもある。当然、こうした販売価格の変更は直接にバイヤーの実績、評価に反映される。

 商品部は、本部に加え、華東、華北、東北、華中、華南の5つのエリア商品部に分けられている。基本的に、本部は80%の仕入ルートを決め、5つのエリア商品部は、単品のメンテナンス、オーダー処理、日常管理がメイン業務となる。つまりエリアマネージャー的な仕事だ。価格については、商品部本部が仕入原価、競合売価、粗利、工場提案売価を考慮したうえで設定する。新商品を店舗へ投入して3ヵ月以内は、ほぼこの基本価格設定のまま販売するが、3か月後には、商品部本部管理対象から外され、各店舗が価格を変更する権限をもつようになる。

 これらの仕組みから想像できることは、RTマートにはこの『思路』を司っている1人の人間がいてロジックが組み立てているであろうということだ。中国でのしくみを構築する際には、ディレクター(監督)が最も重要なポジションとなる。職位ではなく、役割という意味で、ぶれない柱である人間が必ず必要になる。中国の大半の企業は、ただ競合から人材を引き抜き、時には吸収合併し、コンサルティング会社や投資会社に相談をし、表面的には問題ないが、中身は恐ろしいことになってしまっているケースが非常に多い。個別最適だけを組み上げていくと、店数が多くなったときに身動きがとれない状態になるのだ。

 弊社『一伍一拾』は今、その危機を打開するために一人の「思路」を基軸として全てのしくみを再構築する取り組みをはじめている。「思路」を整理し、できるかぎりシンプルにまとめていかない限り継続的効果的な発展を見込むことは難しいからだ。既に5か月が過ぎた。この中国ローカル企業バラエティストア立て直しの記録を、今後この紙面でリアルタイムに報告していくことで読者の力になりたいと思っている。

【次回予告】

中国No.1スーパーマーケット、RTマートの強み(2)

コラムニスト 富井 伸行 Tomii
参照URL
最終更新日 2013-02-23

 

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