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日本には、ホワイトリストが必要である (2026年10月12日)

 中国とのビジネスを、これからも続ける意味はあるのか。

 日中関係をめぐる厳しいニュースに接するたびに、この問いが浮かぶ。技術流出への懸念、重要物資への依存、邦人の安全。いずれも軽く扱ってよい問題ではない。日本が守るべきものは、確かにある。

 同時に、忘れてはならないものもある。

 一つの取引の向こうには、その商品を必要とする人がいる。品質を確かめ、納期を調整し、問題が起きれば解決のために動く人がいる。言葉や商習慣の違いを越え、時間をかけて信頼を築いてきた人たちがいる。

 日中ビジネスとは、貿易統計に表れる数字であるとともに、そうした仕事の積み重ねでもある。関係を考慮するときには、何を避けられるかに加え、何を失うのかも考える必要がある。

 米中対立を背景に、経済活動と安全保障の関係は大きく変わった。先端技術の輸出管理が強まり、中国も重要鉱物などの輸出を管理するようになった。日本企業は、自社の製品だけでなく、取引相手、最終的な使い道、米国法の適用、中国側の制度まで確認しなければならない。

 さらに、中国は日本を名指しした措置を強めている。2026年1月には、両用品目について、日本の軍事ユーザー、軍事用途、日本の軍事力向上に寄与するその他の最終需要者・用途への輸出を禁止した。2月には日本の企業・大学などを輸出規制管理リストと注視リストに掲載し、6月にも追加措置を発表している。日本から何を輸出できるかに加え、中国から何を調達できるかも、確認を要する状況である。

 経済安全保障が重要であることに、異論はない。軍事転用につながる技術の流出は防がなければならない。重要物資の調達を一国に過度に依存する状態も改めるべきである。

 ここで、日本の輸出管理の仕組みを簡単に整理したい。

 日本の安全保障貿易管理には、まず、製品の性能や仕様によって対象を指定する「リスト規制」がある。兵器や軍事転用の可能性が高い貨物・技術について、原則として輸出や提供に許可を求める制度であり、中国に限らず、全地域向けが対象となる。そのうえで、品目と仕向地などに応じて、一定の取引をまとめて認める包括許可など、手続き上の違いが設けられている。

 いわゆる旧「ホワイト国」、現在の「グループA」は、こうした手続きの扱いに関わる相手国の区分であり、中国は含まれていない。つまり、日本の制度は、規制すべき品目を指定する軸と、相手国によって手続きを区分する軸を持っている。中国向けに「何を売ってよいか」を示す一覧があるわけではない。

 さらに、リスト規制に該当しない製品にも、「キャッチオール規制」という補完的な仕組みがある。食料品や木材など一部を除き、一般的な貨物の大半が対象となり得る。ただし、対象品目に入ることと、輸出に許可が必要になることは同じではない。仕向地や品目に応じ、用途や最終需要者について兵器開発などへの懸念が所定の条件に当たる場合、あるいは経済産業省から許可申請を求める通知を受けた場合に、許可が必要となる。

 2025年10月には、この補完的な規制が見直された。中国などの一般国向けでは、特定品目について通常兵器に関する用途・需要者の確認が許可判断に加わり、グループA向けにも当局の通知によって許可を求める仕組みが導入された。企業には、従来の理解に頼らず、品目や取引条件に応じて判断を更新することが求められている。

 製品そのものを確認するだけでは、判断は終わらない。「誰が、何のために使うのか」まで確かめる必要がある。

 しかし、日本からの輸出は、本来、自由であることが基本である。中国向けであっても、安全保障貿易管理上の許可要件に当たらなければ、原則として自由に輸出できる。だからこそ、企業が必要な確認を済ませ、進められる取引には迷わず取り組めるよう、その条件を分かりやすく示すことが重要である。

 それでも、慎重であろうとする企業が、十分に調べても判断できず、商機を見送るとすれば、そこには政策が応えるべき課題がある。

 規制違反を避けたい。取引先にも、社員にも迷惑をかけたくない。その責任感から、判断の難しい案件を止めることは、企業にとって合理的な選択であろう。とりわけ、専門人材を十分に抱えられない中小企業にとって、確認に要する時間と費用は重い。

 だが、その慎重さに任せ続けてよいのだろうか。取引を見送った結果は、売上の減少としてすぐには表れないこともある。新たな顧客との出会い、現地の変化を知る機会、次の事業を担う人材の経験。失われた可能性は、統計には残せない。

 日本には、対中ビジネスの「ホワイトリスト」が必要である。

 ここでいうホワイトリストは、旧「ホワイト国」のように、相手国を一括して優遇する名簿ではない。国があらかじめ取引を進めてよい範囲を示し、その範囲に当てはまる取引には、企業が個別の行政判断を待たずに取り組める仕組みである。

 品目、用途、最終需要者。この三つを必要に応じて組み合わせ、日本の制度上、進めてよい取引の条件を具体的に示す。企業が自分の取引を照らし合わせ、条件に当てはまると確認できれば、その都度行政に照会することなく事業を進められるようにする。

 既に、経済産業省には相談窓口や判断のためのガイドライン、包括許可などの仕組みがある。これらの蓄積を土台に、企業が自ら判断して進められる範囲を、国の責任で明示することを提案したい。条件の確認は必要であるが、毎回同じような調査や照会を繰り返す負担は減らせるはずである。

 リストに載らない取引は、既存の制度に基づいて判断する。難しい案件には相談対応を充実させる。進められる取引と、慎重な審査が必要な取引を分けることで、企業も行政も、本当に懸念のある案件に留意するようにしたい。

 その際には、「国が示した条件を守って取引したのに、後から問題が判明した場合、企業はどこまで責任を負うのか」も明確にしておく必要がある。

 条件に従った企業が、後から判明した事情だけで責任を問われることのないよう、保護する範囲を定めるべきである。もちろん、新たな懸念を把握した後には、取引を見直す責任がある。国が情報を更新し、企業が変化に対応する。その役割も明らかにしておきたい。進めてよい範囲を示し、その条件を守った企業を支える。そこまで整えてこそ、企業は安心して一歩を踏み出せる。

 もちろん、日本のホワイトリストによって、中国側の許認可や米国の規制まで解決することはできない。日本からの輸出と、中国からの調達でも、適用される制度は異なる。だからこそ、日本側で明確にできる範囲を示し、他国の制度について別途確認が必要な事項も分かるようにする必要がある。中国側の措置が厳しくなるほど、日本側で判断できることまで曖昧にしておく余裕はなくなる。

 中国に取り組む価値がなくなったわけではない。

 ジェトロの2025年度調査では、在中国日系企業のうち、2025年の営業利益を黒字と見込む企業は63.2%であった。一方、今後の事業拡大を予定する企業は21.3%にとどまった。この調査は2025年8〜9月の実施であり、その後の日中関係や規制の変化を織り込んだ数字ではない。それでも、厳しい競争の中で利益を生む事業が存在していたことは、判断の材料として残る。

 さらに、ジェトロが2026年5〜6月に在中国日系企業28社を対象に実施したヒアリングでは、日本のコンテンツ、ヘルスケア、飲食などに商機を見いだす声があった。対象は前年の調査で黒字を見込み、事業拡大または現状維持を予定した企業の一部であり、中国事業全体を代表するものではない。だが、現地の変化に対応し、顧客を開拓しようとする企業の姿は確認できる。

 その市場に挑むかどうかは、企業が決めることである。国が支えるべきなのは、判断に必要な条件を整えたうえで、企業が自らの力を試せる環境である。中国の消費者を知り、現地企業と競い、時には協力する経験は、日本企業が世界で生きていく力にもなり得る。

 その根底に置きたいのが、「利を以て人を通ず」という考えである。

 互いに利益を得られる仕事を通じて、人と人との関係をつなぐ。相手に必要とされ、自分も相手を必要とする。その関係を、約束を守り、問題を解決する日々の仕事によって育てていく。

 政治的な意見が一致しなくても、ともに仕事をすることはできる。国家間に対立があっても、長年の取引先の困り事を聞き、解決に向けて話し合える関係はあり得る。そうした接点を残すことには、経済的利益を超える意味がある。

 経済交流が平和を保証するわけではない。過度な依存が圧力の手段になる危険もある。それでも、相手の実情を知る人がいること、話を聞ける相手がいること、問題が起きたときに連絡できる人がいることは、対立が厳しい局面ほど大切になる。

 信頼は、必要になった日に発注して手に入れられるものではない。長い時間をかけて築かれ、往来の中で確かめられていく。取引と人材の通路を閉じれば、それをもう一度つくるには、再び時間が必要になる。

 邦人の安全、技術と情報の保護、公平で透明な事業環境は、その前提である。中国側に改善を求めるべき問題は、明確に求め続けなければならない。2025年3月の日中ハイレベル経済対話では、日本政府は、邦人拘束や反スパイ法の不透明性が渡航やビジネス活動を萎縮させていると指摘し、邦人の早期釈放と安全の確保、公平性・予見性・透明性のある事業環境を求めた。厳しく要求することと、対話の接点を保つことは、ともに必要である。

 ホワイトリストによって示したいのは、日本自身の意思である。
守るべきものを守りながら、どのような仕事を続け、どのような関係を育てていくのか。国が条件を示し、企業が判断し、人が往来する。その中で、次の世代が相手を知り、新しい事業と信頼を築いていく。

 対立の中にあっても、互いの暮らしを豊かにできる仕事は残されている。その仕事に責任を持って取り組もうとする企業が、堂々と一歩を踏み出せるようにしたい。

 日本には、その一歩を支えるホワイトリストが必要である。

コラムニスト 潜龍
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最終更新日 2026-10-12

 

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