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第四話 謝謝謝謝謝謝謝謝 (2007年06月09日)
| 中国人と交流していて、不思議に思う事は色々とある。第4話のテーマはその中の一つ、重複表現について。何故こうも中国人は同じ単語を重ねるのが好きなのだろうか？ 例はいくらでもある。旧知の間柄で久々に会うと、“好久不见。你好你好你好你好”。また、“谢谢谢谢谢谢谢谢”や相槌の“对对对对对对对对”、“是是是是是是是”は巷に溢れかえっているし、電話口では“好的好的好的好的”。はたまた綺麗な女性とすれ違った男同士は目配せしながら、“非常非常非常漂亮的”。この様に中国人は言葉の重ねが大好きだ。
どうして？ 最初に思い付いた仮説はこうだ。中国人は古代より、とかく大袈裟な表現を好むから。日本人にもお馴染みの酒池肉林や白髪三千条、素晴らしい比喩ではあるが、我々日本人には無い発想だ。そんな事を口にすれば、周囲から白い目だ。我々日本人であれば、冒頭の中国語の重複表現はこうなるであろう。“お久しぶりです。お元気でしたか？”、“恐れ入ります”、相槌は“はい”の１回。子供の頃からの教え「“はい”は１回でよろしい」を皆頑なに守っている。電話での同意は、“左様ですか”、すれ違った美人に対しては、“すっげぇ美人”。話を戻すが、中国人は誇大表現を好む。 誇大表現が重複を生む、ちょっと考えてみただけでも、この仮説では答えを網羅していない事が解る。もし誇大表現だけが原因であるとするならば、全ての中国人が、どの日本人より大袈裟でなければならない。言い換えると、慎ましい中国人でさえ、大仰な日本人よりも誇大表現を駆使している、となる。そんな馬鹿な。この証明は実に簡単である。こなた日本人のこの私。幼少時分より大袈裟男で通っている。そなた中国人は、弊社設計課長の一人、nickname橋橋（ちゃおちゃお）氏に登場してもらおう。お公家さんの雰囲気を醸し出しつつ芯の通った謙虚な橋橋青年。私の表現と彼の表現、うちの会社の誰に聞いても全員、突き出しで老松の勝ち。しかしながら、老松に完敗の橋橋青年も他の中国人同様、“谢谢谢谢谢谢谢谢”、“对对对对对对对对” などを多用している。しかるに、中国人の誇大表現だけでは、説明が付かないのである。 はて？では何が原因？ 日本語との比較にそのヒントがあった。日本語にも多少は重複表現は存在する。相槌の“え～え～え～え～” や “そうそうそうそう”、また、“ダメダメダメダメ”や振り込め詐欺で流行語となった“オレオレオレオレ”など。そこで、中国語との対比を考えていると、この原因は音節だ、と答えを見い出した。１音節または２音節が重複表現の対象なのだ。３音節となると、３回以上の繰り返しは困難である。“ダメダメダメ”は言えても、３音節の“ダメだダメだダメだ”にはならない。“そうそうそう”とは言えても、“そうですそうですそうです”にはなりにくい。中国語も同様である。中国語の場合は漢字１文字＝１音節なので、説明は簡単だ。了解を意味する２音節の“明白”、“明白明白明白明白”となっても、中国語の時制として自然である過去形の“明白了明白了明白了明白了”とはならない。それではまるで早口言葉である。同様に、“谢谢谢谢谢谢”と言っても、より丁寧な“谢谢你谢谢你谢谢你”とは言わない。 では、次に考察すべきは、音節と中国語の関係である。中国語は音節が少ないのか？ 答えはyesである。中国語特有の四声により、中国語はやたら短いのだ。この点については、中国で発行されているフリーマガジンSuperCityChinaで、既に筆者は執筆済みである。御参考までに是非ご一読を。 中国の音 第５回 中国人の声は何故デカい？ 後編【SuperCityChina 2005年10月号】 したがって、１音節や２音節で数多くの単語が存在する中国語に、重複表現が多い。またそれを使う中国人のオーバーな表現の好みが、重複表現を広げるのである。ただし、この重複表現については、他にも２つの観点での考察がさらに必要であると感じている。一つは重複表現と共鳴・共感。もう一つは重複表現と礼儀。次回はその辺を掘り下げてみたい。 謝辞）執筆に当たり御協力戴いた皆様方。ありがとうございました。敬称略。yunyun朱，Rainy李，趙橋橋。 注１） 『老松の猫虎飯店』の著作権は、全て松原弘明に帰属します。無断転載を堅く禁じます。 注２） 中国人の多様性を鑑みた場合、中国人を一義的に定義する事は不可能です。『老松の猫虎飯店』では、私と関わりの多い都会在住漢民族の最小公倍数的な現象や特徴を記している事を、敢えてここに記しておきます。
改訂：6月9日 初版：5月30日 |
| コラムニスト | 松原弘明 |
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| 最終更新日 | 2011-08-20 |