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第16話 四川大地震 中国人の心の琴線に触れた死者への黙祷 (2008年06月16日)

 四川大地震、ミャンマーサイクロンによって亡くなられた数多くの方々の御冥福を心からお祈り申し上げます。また、一日も早い復興を祈念致します。合掌。

 四川大地震の報道や哀悼の表現方法について、いくつかの中日差異を感じた。しかしながら、それを微々細々と記すのは憚られる。そこで、猫虎飯店の基本コンセプトである「中日異文化交流の扉を開く、ちょっとしたキッカケを掴む糸口」、その原点に立ち返り一つだけ記す。


 この写真、殆どの方が御存知だと思う。5/17(土)朝、日本の救援隊が16時間かけ、崩壊したビルの瓦礫の中から発見した母子。残念ながら既に亡くなっていた。その母子の遺体に対し、日本の救援隊が黙祷を捧げている様子である。このnewsは中国のTVで繰り返し放映され、またnet上での報道数も相当なものであった。娘と孫を一遍に亡くした55歳の女性は、悲しみのどん底の中でも、日本の救援隊へ感謝の言葉を述べている。「たとえ遺体であっても一目会えました。日本の救助隊の多大なる御苦労に対し深く感謝します」

 通常あらゆる事柄に於いて、中国人の意見や反応は多様である。しかし、このnewsに触れた中国人の反応は、以下がマジョリティを形成した。「日本人は嫌いであったが、日本人への見方が一変した」、「日本人がとても好きになった」。新聞報道に於いても「日本人の救助隊は、首尾一貫、用意周到、真摯に諦めずに2人を探した。16時間かかりやっと掘り出した2つの遺体を丁寧に包み、その遺体に対し列を作って黙祷を捧げた。この2人は、異国の人間から尊敬を受けたのである。この日本人の救援隊の行動は、我々に多くの事を教えてくれる。どんな複雑で困難な状況にあっても、生きている人と同じ様な態度で死者に対しても尊敬の念で接する。死者に対し、最後まで人間の尊厳を保つ。これは最低限の生命の倫理である。日本の救援隊からの教えはまだある。異国の死者に対し尊敬を表す事である。中国の母子が勝ち取った尊敬は、日本の死者と何の違いがあろうか。違いなど無い事は明白である。日本救援隊は、自国の国民に向けて行なう儀式を、見ず知らずの中国の母子に行った。彼等の眼中には、生命の価値は人種や国境や信仰を超え何ものにも代え難い至上のものである。しかも正にこの考えに基づき、国際主義と人道主義の精神を以って、四川大地震発生直後、直ぐに救援参加を申し出てくれたのである」(http://zjc.zjol.com.cn/05zjc/system/2008/05/22/009536444.shtmlの記事を筆者が意訳)

 弊社staffや知り合いの中国人にも直接尋ねてみた。ほぼ全員が心を揺さぶられているのである。人間、困難な時の助けや優しさは心に沁みる。実際、今回は日本の救助隊がいち早く被災地に駆けつけ、救助活動を行っている。勿論それもあろう。しかし、心を揺さぶられる理由は、遺体に対する哀悼の気持ちを日本人が表した事にある。この習慣は、中国人の救助隊には無いそうである。中国では、災害時には亡くなった方に対してはビニール等で簡単に包み、直ぐに次の救援に向かう。黙祷している時間があれば次の救助に充てるべき、の論理である。これは習慣の違いである。善し悪しの問題では無い。普通、人間というものはどこの国の人もそうであるが、異なる習慣や異文化に対して極めて許容度が低いものである。では何故、異なる習慣の日本の救援隊の行動に対し、日本人への印象を一変させた中国人が数多くいるのか。2人の中国人女性の意見を紹介する。

 21歳学生 「亡くなった方への哀悼の気持ちは中国人にも当然ありますし、我々も黙祷はします。それはどこの国の人でも同じでしょう。救助隊の黙祷については、国によって異なります。私は詳しくはありませんが、日本以外にも欧米の救援隊も多分黙祷するのではないでしょうか。確かにその習慣は違いますが、黙祷は哀悼や尊重の気持ちの表れと直感的に解りますので、この習慣の違いによって摩擦は発生しなかったのだと思います。」

 36歳会社員 「中国人は一旦知り合いになると、お互い強く助け合い暖かい関係を築こうとします。一方、知らない人に対しては、割りと冷たい態度を示す事もあります。そうしないと中国人はこれまで生きて来れなかったのです。知らない侵略者から身を守るためには、知っている者同士で結束するしかなかった。それが習慣の違いに繋がったのではないでしょうか。でも習慣は違っても、哀悼の気持ちは全人類共通。日本の救助隊の母子への黙祷が、中国人の心の琴線に触れたのだと思います」


コラムニスト 松原弘明 Right
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最終更新日 2011-08-20

 

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