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第21話 中国人はエコー好き! (2008年11月04日)

 先日、日本で著名なヴォーカリストの上海講演に足を運んだ。会場は野外。開演前の場内アナウンスの際、まさかと思った。“ここでコンサート出来るの?” 音が悪いと言うか凄いエコーなのである。周囲の建物群から回り込んでくる反響音が凄いのである。まるでアルプス一万尺でヤッホーォッの世界なのである。敢えて文字で表現するならばこんな感じだ。「大家好、大家好、今天的、大家好、今天的、演出、大家好、今天的、演出、今天的、演出~~」 

 演奏が始まり、残念ながら私の懸念は予測通り的中。バスドラと共に「ドーンっ!」と最初の音が鳴った瞬間、音が回るわ重なるわ。こんな環境でコンサートを聴いたのは、この老松(らおそん)生まれて初めて。頭痛でノックアウトされ、30分で会場を後にしたのであるが、一方中国人の観客は平気でノリノリであった。翌日、その納得出来ない不思議な光景が頭から離れず、中国人と反響音の関係を何となく考えていると、“彼等は気にしない、と言うより、エコーが好きなのではないか”、と云う仮説が浮かんだ。上海生活5年弱、思い起こしてみるに、例えば、中華料理店で行われる新年会では、司会の声は必ず響いている。私が経営に携わっている当社の忘年会でも、最大にかかっていたマイクのエコーを切った私を見る何か不思議そうな、ほんの少し不満気な、何かつまらなさそうな、そんな中国人スタッフの表情が脳裏に蘇った。また、スタッフ達とカラオケハウスに行った際も、彼等のマイクはハウリング寸前の大音量+最大エコーである。私がエコーを絞って唄った後も、必ず元の設定に戻すのが常だ。

 仮説発案の翌朝、この仮説を解明したい欲望を、早速周囲の中国人にぶつけてみた。「中国人ってエコー好きだよね?」の私の突然の質問に、皆一様にキョトン?から入るのであるが、上述の例を説明していくと、面白い話が続々と。暫しその意見にお付合い下さい。 注1)

◆20代男性:言われてみるとそうかも。ボクのお母さん、どこか声が響く場所にたまたま出くわすと、嬉しくなっていつまでも声を出してるなぁ。今迄気付かなかったけど、コレ面白い。猫虎飯店のテーマに最適ですよ。

◆30代女性:エコー好き? 確かにそうかも。中国には声や音が響くための建物が売りの観光地がある程なんですから。その響く観光地での事。「愛してる~っ!」って恋人に言う男性と居合わせたんで、うちの旦那にも催促したんですが、聴こえませんでした。きっと、恥ずかしがって小さい声だったんでしょうね(笑)

◆20代女性:考えてみると、うちの大学の式典や表彰の時には必ずエコーがかかってますねぇ。声が響き過ぎて発言内容自体はたまに皆解らなくなるんですけど、私達中国人にとっては、意味そのものよりも音響の方が大切なんでしょうね。って言うか、響きがとても重要って、初めて気付きました。へぇ面白い。

◆20代女性:確かに確かに(爆笑)。そうそう。声が響くと、イベントっぽいと言うか、特別な感覚と言うか、華やかな気分にさせられるわ。言われてみると。あとねぇ、山なんかでこだまする場所だと、殆どの人が叫んでるわ。その内容? 日本人は「ヤッホー」って決まってる? 中国語にはそんなの無いわよ。俺来たぞ~、とか、私は楊貴妃よぉ~っ(自分の名前)、とか、ららら~っ、とか、愛してるぞ~っ、とか、皆まちまちよ。 注2)

 と中国人の意見を聞いていく内に、ふと以前に執筆したネタを思い出した。『熱熱閙閙――中国人は多重音がお好き!?』である。(和文と中文、両方有り) 

 その冒頭の書き出しはこうだ。 ~けたたましい車のクラクションに、テレビやラジオの騒々しさ…中国での音量の大きさには、日本人なら誰でも気になるはずだ。しかし、中国人は単なる音量の大きさだけでなく、いくつもの音が重なることに安らぎすら感じているのかもしれない、と気付き始めた。~

 中国人と日本人の差異について、我ながらよくもまぁこれだけ次から次に気付くものだ。この差異があるからこそ、お互いを知り交流する必要があるのである。



  • PR)筆者がパーソナリティを務める『中国の音~ネットラジオ版~』、是非こちらも御一聴下さい。第7回「中国人と日本人、そんなに違う音の感覚!?(前編)」がupされました。



  • 謝辞)執筆に当たり御協力戴いたYurin周,Baiwei孫,Lisa王,Bonnie包,Super汪,海麗,Sunny孫,ありがとうございました。また、yunyun朱の品質の高い中文翻訳にも深謝します。(敬称略)

  • 注1)今回は、恒例になりつつある50人アンケートではなく、6名に尋ねてみた。2名はエコー好きに賛同せず、中国人は皆エコー嫌い、との事。老松の自論である『中国人の多様性』はここでも証明された。

  • 注2)これも『中国人の多様性』の表れの一つの事例、と言えるのかも知れない。

  • 注意)『老松の猫虎飯店』の著作権は、全て松原弘明に帰属します。無断転載を堅く禁じます。


コラムニスト 松原弘明 Right
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最終更新日 2011-08-20

 

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